日本は手続きと広報に努めよ
麗澤大学客員教授 西岡力氏(下)
文在寅政府は日韓基本条約だけでなく、さかのぼって日韓併合条約まで見直そうとしているように感じるが。
今回の判決は「併合条約は非合法的なものであった。だから無効だ」という論理に立っている。非合法なものであったので、慰謝料を請求できるという解釈だ。未清算の債務に対する個人請求権が残ってる、残ってないという議論とは別なのだ。つまり違法行為に対する賠償金ということである。
条約は司法を含めて拘束する。条約を憲法違反だとすれば国と国との関係は成り立たないのに、文在寅は65年(日韓基本条約)の枠組みそのものを崩そうとしているのではないか。ソ連が倒れてロシアになった時、過去の条約全てを破棄したように、日韓関係だけでなく、韓米関係も含めて、全体を革命しようとしているのではないか。
“歴史を正しく立て直す”作業の中で、対外関係が壊れても仕方ないと思っているのか。
彼の周辺にいる主体思想の理論家たちはそうだ。それが彼らのイデオロギーだからだ。ただ経済的には非常にマイナスになる。経済の悪化は支持率低下に直結する。なので今は都合よく政治と経済を切り離す「ツートラック」などと言って、経済支援だけは欲しいのだ。しかし、日本としては65年の枠組みを守る線は譲歩できない。
戦時労働者の補償について、日韓の官民で基金を作る案が出ているが、こういうものに日本が参加してはならない。枠組みを作ったら取り返しがつかなくなる。補償が足りないというなら、2005年盧武鉉当時の委員会の結論、65年に受け取った資金に労働者への補償金は含まれるから補償は韓国がすべき、に立ち戻ればいい。文在寅自身が委員として参加し出した結論だ。
文在寅政権として日韓関係をどうしたいのだろう。
日韓関係を改善することも考えているだろうが、まずは、やはり自分たちの論理を貫くことを優先している。日本の統治が悪であって、それに協力した親日派は民族の裏切り者で、その者たちを追い出す革命をしなければならないという枠組みを維持しつつ、日本から一定の利益を取る、ということを考えているのではないか。
今後、文政権が続く限り今の状況は変わらない。
G20で日本側はまだ(日韓首脳会談の)日程は決まっていないとしているが、戦時労働者問題で仲裁委員会を開くという意思表示をしない限りは安倍首相は文大統領に会うべきではないと思う。最高指導者同士が会って衝突すれば、もう出口はなくなる。それでも関係を良くしたいと思うなら、仲裁委員会に出ることを検討すべきだ。
本来であれば民事訴訟の話だから、最高指導者が話すような話題ではない。局長レベルで話をできる窓口ができてもいい。それで駄目なら仲裁委員会、さらに国際司法裁判所と、協定に基づいて行い、韓国が応じるまで日本は譲歩すべきでない。われわれとしては、韓国の国民にも分かるように説明していくことが重要だ。
ただ、正しいことを主張していれば自動的に国際司法裁判所で勝てるということではない。継続的に研究と広報をしていくことが必要だ。韓国は海外への発信に熱心だ。政府を挙げて研究と広報を行っている。国立強制動員博物館まで作っている。日本政府は65年の協定で解決されたとだけ広報しているが、実際、戦時中の労働の実態がどういうものだったのかについての広報はない。韓国が批判しているようなものではなかったことが知られていない。それでは不十分で、国際社会に日本の主張を粘り強く訴えていくべきだ。(敬称略)
(聞き手=編集委員・岩崎 哲)











