日本に関心ない文大統領 /元駐韓大使 武藤正敏氏
元駐韓大使 武藤正敏氏(上)
関係改善の糸口を見いだせずに冷え込んだままの日韓。今後の見通しを、長年、韓国との外交に携わってきた武藤正敏・元駐韓国大使に聞いた。
(聞き手=岩城喜之)
日韓関係は国交正常化以降で最悪と言われている。今の状況をどう見るか。

むとう・まさとし 1948年、東京都出身。横浜国立大卒業後、外務省入省。朝鮮語研修の後、在大韓民国日本大使館勤務。外務省アジア局北東アジア課長や駐クウェート大使などを経て、2010年から駐韓大使。12年退任。著書に『韓国人に生まれなくてよかった』(悟空出版)、『文在寅という災厄』(同)など。
最悪かどうかは見る角度によって違う。韓国で起きていることを見た場合、日本製品の不買運動や訪日しない運動などが起きているが、1982年の歴史教科書問題(後に世界日報の報道で誤報と判明)の時の雰囲気と比べたら、最悪とまでは言えない。
ただ、二つの面で史上最悪になっている。一つは、日本で韓国に対する大きな反発があり、日本人が怒っていること。二つ目は、今の日韓関係を何とか落ち着かせようとする人がいないことだ。
82年の時は、中曽根康弘首相(当時)と全斗煥大統領(同)で電話をした。日韓議員連盟も何とか問題を収拾しようと動いていた。だが、今はそういう動きが見えない。
なぜ日韓関係は、これほど悪化したのか。
文在寅政権が現実を直視せず、理念を先行させていることが大きい。今の国際社会で韓国がどういう位置付けにあるか、日本との関係がどうかなどを見ず、自分の考えだけを貫き通そうとしている。
韓国のメディアが「今の文在寅政権に誰が一番がっかりしているか。おそらく盧武鉉元大統領だ」と言っていた。盧武鉉元大統領は、まだ現実を見ていた。
ただ、韓国と断交しろと言う日本人がいるが、それには賛成しない。日韓関係は大事な関係だし、昔に比べたら国民同士の関係は良くなっている。あえて切る必要はない。
文政権は親日派追及などの積弊清算を訴えているが、何を目指しているのか。
今後、20年続く革新政権を作ろうとしている。そのために、保守政権がしてきたことをすべて否定しているのだ。「漢江(ハンガン)の奇跡」も否定しようとしている。「漢江の奇跡」は、韓国の近代化にとって一番大きな出来事なのに、それを否定するのは考えられない。
朝鮮日報の主筆が「文大統領が行った就任演説の内容を改めて読んでみたところ、それは一言で『うその饗宴』だった」と書いていた。文大統領は就任演説で積弊の清算と言わず、「私を支持しなかった国民一人一人にも仕えます」と言ったが、やっていることは全然違う。
最近、韓国では「文在寅が変わったのか、われわれが見誤ったのか」という議論が起きている。
朴槿恵氏が当選した2012年の大統領選の前に、有力対抗馬だった文氏に会いに行ったそうだが、その時の印象はどうだったか。
日韓関係のことを細かく説明したが、それについては一言もコメントがなかった。文大統領が言ったのは、「日本は北朝鮮に対してどう臨むのか」「南北統一についてどう考えるか」だった。「日韓関係については、あまり関心がないな」というのが、その時の印象だ。それは今も変わっていない。