以前とは違う“革命”韓国
麗澤大学客員教授 西岡 力氏(上)
国交正常化以降最悪となった日韓関係の出口が見えない。悪化の原因と解決の見通しを現代朝鮮問題研究の第一人者・西岡力麗澤大学客員教授に聞いた。(聞き手=編集委員・岩崎 哲)

にしおか・つとむ 1956年東京都生まれ。国際基督教大学卒。韓国・延世大学校に留学。公益財団法人モラロジー研究所歴史研究室室長・教授。北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(「救う会」)会長。
日韓関係が悪くなった原因はどこにあるのか?
日韓関係だけが悪くなったとは思っていない。韓国がこれまでの日米韓3カ国同盟、自由民主、市場経済、反共という路線から外れようとしており、それが日韓関係にも反映しているとみる。われわれと付き合ってきた韓国とは違う国になろうとしている。
どう変わろうとしているのか?
北朝鮮の政権が半島の中で正統性があると考える人たちが南で権力を掌握してきた。その結果、今までの路線から抜け出ようとしているのだろう。
それは北朝鮮の影響を受けた「主体思想派」(主思派)か。
そうだ。80年代から始まり90年代から本格化した主思派が今では大統領府秘書官の半分を占めるようになった。本来は冷戦が終わり、社会主義勢力は衰退していくはずだが、民族主義が媒介になったため、そうはならなかった。
1970年代は朴正煕大統領の独裁的なやり方に反対し、韓国は経済も豊かになったのだから、独裁を緩めて、民主化した方が北朝鮮の共産主義勢力との戦いで有利になるのではないかという民主化要求が起こった。
ところが80年代になると「正統性」の議論になった。韓国よりも北朝鮮の方が正統性があるという見方が急速に広がったのだ。その媒介になったのが「解放前後史の認識」という本だ。80年代の学生で読んでない者がいないくらいのベストセラーになった。
同書は解放の45年から大韓民国建国の48年までを扱っている。李承晩政権は親日派を清算せず、日本時代の官僚や軍人、警察官をそのまま使ってスタートした親日派政権だ。彼自身は外国で活動していて、実際は銃一発も撃ってない。一方、同書には明記されていないが、その主張の延長線上で、金日成は銃を取って戦い、親日派も清算している。民族主義の観点から南北どちらに正統性があるかという指摘にまで到達する。
韓国はさらにその後、親日派が親米派に化け、独裁政権となった。だから韓国の現代史は汚れた歴史だという捉え方だ。
文大統領の考えがそうなのか。
文在寅は大統領選挙の時に出した「大韓民国が尋ねる、文在寅が答える」という公約書で繰り返し言っているのは、「大韓民国の主流勢力を取り換える」ということだ。主流勢力とは彼らに言わせれば親日派であり、それが化けたという、反共派、親米派、開発勢力だ。これらが清算されていないのだと。だから全部を交代させてこそ、初めて歴史が正しく打ち立てられる、と主張している。
だから前任大統領を2人も刑務所に入れ、最高裁の前任長官も「徴用工判決を遅らせた」として逮捕した。彼らからすれば主流勢力を交代させる革命なわけだ。(敬称略)