韓国・文政権、米中の狭間で「反中色」自制
米国と中国の覇権争いの狭間で韓国の文在寅政権が「反中国」と映ることに神経を尖らせている。米国の次世代通信規格「5G」のネットワーク建設や北朝鮮のミサイル攻撃を想定した迎撃ミサイル配備などをめぐり韓国は米中双方から圧力をかけられているが、双方から等間隔というよりは中国にやや軸足を置いている印象だ。こうした韓国のスタンスは北東アジアの安全保障に影を落としそうだ。
(ソウル・上田勇実)
5G・ミサイルで米国を軽視
日韓米連携に慎重な外交
ハリス駐韓米国大使は今月上旬、ソウル市内で開催されたIT(通信技術)関連の会議で、韓国IT企業に対し低価格攻勢で国内通信機器市場でシェアを伸ばす中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の製品を使用しないよう促した。
「短期的費用節減に気持ちが傾くだろうが、信頼できないサプライヤーを選べば長期的なリスクと費用の負担は極めて大きくならざるを得ない」
軍事・経済などで中国と派遣争いをする米国は、同盟国である韓国のファーウェイ製品使用を安全保障上の脅威と見なしている。これまで中国が米国から数々の先端技術を不正に窃取してきたことが発覚しており、韓国内の通信インフラに中国製が使用されれば米国の情報が韓国経由で中国に筒抜けになる恐れがあるためだ。
またハリス大使は「日米韓3カ国の協力強化に強い意志を持っている」とし、事実上の「中国包囲網」である米国主導のインド太平洋戦略について「一緒に協力してくれることを期待する」と呼び掛けた。
ところが、青瓦台(韓国大統領府)は「韓国内の軍事・安保通信網にはファーウェイ社の5Gは使用されていないため韓米軍事・安保分野に及ぼす影響は全くない」とのコメントを出すにとどまった。韓国はトランプ米大統領が掲げる反ファーウェイ戦線に同調せず、インド太平洋戦略にも参加しないと宣言したとの見方が広がっている。
文政権が「反中色」を自制しているもう一つの懸案が、北朝鮮ミサイル攻撃を想定して韓国配備を進める高高度防衛ミサイル(THAAD=サード)だ。
韓国の鄭景斗国防相は先日、中国と7カ月ぶりに国防相会談を行った際、「サード配備に関し韓国の立場を十分説明し中国も良い方向に話をした。両国の理解がかなり深まった」と述べた。
レーダーで自国軍事施設まで監視されてしまうという理由でサードの韓国配備に猛反対してきた中国は一昨年、韓国南部の星州に臨時配備された際、韓国企業を中国市場から締め出すなど報復措置に出た。その後、韓国は中国の顔色をうかがい、正式配備を遅らせているが、米国からは逆に正式配備を要請されていると言われる。
「両国の理解が深まった」ことの真意について大手紙・朝鮮日報は「ひょっとしてサード配備を座視しないという中国の脅迫に韓国がまた正式配備を遅らせて報復措置を回避したということではないのか」と疑いの目を向けている。
文政権はなぜ米中覇権争いの狭間で伝統的な同盟関係を築いてきた米国を軽視してまで反中色を自制しようとするのか。文政権発足時に青瓦台の国家安保室第2次長を務めた金基正・延世大学教授はこう指摘する。
「米韓の国益は大部分似通っているが、全く同じではない。日本も強調する日米韓3カ国の連携が固まり過ぎると、それは中国に反中連合と映り誤解を招きかねない。そう感じさせないよう慎重に振る舞うのが韓国外交に与えられたわずかな裁量空間だ」「3カ国連携を緩めることができる手段の一つが(日韓の)歴史問題だ。韓国にはナショナリズムもある」
反中連合という誤解を中国に抱かせない努力が韓国外交の優先課題――。だが、その認識には北朝鮮や中国の軍事的脅威への警戒心は感じ取れない。
この点について1980年代に自ら左派学生運動を経験した後、転向したある大手シンクタンクの幹部は次のように話す。「文政権に見えている中国の現実は市場価値としての現実。北朝鮮や中国の脅威という現実が見えていないと批判しても、中国市場の存在がもっと重要だと言って怒り出す人もいる」
ただ、文政権の中国配慮にもかかわらず当初見込まれた習近平国家主席の月内訪韓は不透明な情勢だ。このため対中外交の失敗だとする批判も上がっている。中国の韓国外しは「窮地に追い詰めれば韓国は卑屈に態度を変えると考えてきた歴史」(韓国メディア)と無関係ではないのかもしれない。

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