ブックトークで「教師力」「人間力」を鍛える
北海道教育大の横藤雅人教授が尽力
近年、小中学校での児童・生徒の立ち歩きや床に寝転がるなどいわゆる学級崩壊は一向に減る気配がない。半面、学習指導要領の大幅な変更などにも起因して教師のストレスが増加し、離職率の上昇が指摘されている。こうした教師を取り巻く環境に対して、将来教師を志す学生に良きアドバイスを送るという意味で北海道教育大学の横藤雅人教授は、定期的にブックトークを開催、「教師力アップ」に尽力している。(札幌支局・湯朝 肇)
教師を志す学生に問題解決の“参考書”紹介
「教育実習で給食時間に『先生、パンを残してもいいですか』と聞かれました。あなたならその子にどう答えますか」――。こう学生に問うたのは北海道教育大学の横藤雅人・学校臨床教授。5月23日、同大学付属図書館のプレゼンテーションルームで開かれたブックトークのテーマは、「読書で『教師力』『人間力』を鍛えるブックトーク」。
学生からは「理由を聞いて、理由が正当であれば『食べなくてもいいよ』と答えます」あるいは「無理に食べさせて子供が体調を崩すといけないので『食べなくていいよ』と答える」といった意見が出る。
そこで横藤教授が紹介した本は、野口芳宏著の『名著復刻 学級づくりで鍛える』(明治図書)。同教授が発した質問に対する野口氏の見解が載っている箇所を学生に読んでもらう。そこには「『そんなことは先生が決めることではない。自分できめなさい』(と子どもに答える)そして、なぜ私がこのように言うのかという理由もその時、きちんと話してやる」と意外な答えが載っている。
次に横藤教授が発した質問は、「荒れた学校が落ち着いた学校になっていくとき、どんな取り組みをしたのだろうか。先生は寝食をなげうって取り組んだのだろうか。寝食をなげうって取り組む教育はよい教育か」と問い掛ける。
この問題に一つの答えを出している書物が吉田順著の『荒れには必ずルールがある』(学陽書房)。学生が読んだ箇所は「荒れている生徒には最低限しか取り組まない……。暴力を他の生徒に振るった場合はこうなる。事実関係はしっかりと調べ、どちらに非があったかを双方に確認し、加害者の親を呼ぶ。あとは被害者の親と相談するだけである。ここに関わる教師は、学年の生徒指導担当者と双方の生徒の教師の3人だけである」。これも意外な回答だ。そこには寝食をなげうって取り組む“熱血教師”像はない。そこから学生同士の意見交流が始まる。
横藤教授は同大学で教鞭(きょうべん)を執り始めた4年前からブックトークを始めている。行う時間は昼休みの30分ほどを利用する。学生が参加しやすいように弁当持ち込みも可。この企画を始めた経緯について同教授は「学校で教師はいろいろな場面に遭遇します。学級経営、教科指導、修養など、さまざまな問題を提起して、参加する学生に考えてもらい、また他の学生と意見交換しながら対話力を養う。さらに出題のような困ったテーマについては参考になる本を紹介してたくさんの本を読んでもらう。そのような機会としてこの場を設けました」と語る。
横藤教授のブックトークは、単なる読み聞かせとは違い、読書の幅を広げるもので、小中学校の学習指導要領に書かれている「主体的・対話的で深い学び」(アクティブラーニング)の形式も取り入れながら進められているのが特徴だ。
この日、ブックトークに初めて参加した同大1学年生の山本拓見さんは、「これまで教育全般にわたる本はそれほど読んできませんでした。教師を志しているので教師になるための本を読みたいと思っていたところにブックトークの企画を知り参加しました。いろいろな本を紹介され勉強になり、また参加したいと思います」と感想を述べた。
今回のブックトークは前日の5月22日にも開かれ、この日は2回目。3回目は10月30日に予定されている。
ブックトーク
大学教授、学校の先生、図書館司書、学校の司書教諭、民間の図書ボランティアなどが、児童・生徒、学生、一般人などに一定のテーマの下に何冊かの本を取り交ぜて、一定の時間内に、聞き手に紹介する行為。図書の利用を促進しようという目的を持って行う教育活動。
「その本の内容を教えること」ではなく、「その本の面白さを伝えること」または「聞き手にその本を読んでみたいという気持ちを起こさせること」が目的であり、「読み聞かせ」や「朗読」とは異なり、最初から順序よく読むのではなく、エピソード、登場人物、著作者の紹介も含めて、批評や解説を加えながら「面白い」「読んでみたい」という気持ちを起こさせる配慮が大切。