地域と共に生きる教師必要

人口減少時代の教育

北海道立教育研究所所長 北村 善春氏に聞く

 人口減少時代に入り、地域の児童生徒数は自(おの)ずと低下していく。人口減少、若者の流出を食い止めるには魅力ある地域の街づくりが不可欠だが、同時に教育機関の整備充実が欠かせない。北海道は他の府県と違ってへき地校、小規模校の割合が高い。そうした中で質の高い教育を施すにはどのような手立てが必要なのか、北海道立教育研究所の北村善春所長に聞いた。
(聞き手=湯朝肇・札幌支局長)

理念持ち地方担う人材育てる
社会性育成が小規模校の課題

全国的に少子高齢化による人口減少が進んでいますが、北海道においてもその影響は教育の分野にも及んでいると思います。現在の北海道で人口減少が教育の現場でどのような影響を及ぼしているでしょうか。

北村善春氏

 きたむら・よしはる 昭和34年9月生まれ、長野県出身。二松學舎大学文学部卒。59年、道立高校(教諭)、文部科学省初等中等教育局、北海道教育庁、道立教育研究所、道立高校(教頭・校長)、日高教育長などを経て、平成28年、北海道教育庁学校教育局長。30年、北海道道立教育研究所所長に就任。

 北海道は学校の数は多いのですが、広域であるため地域ごとに偏在しているのが実情です。そのため一つ一つの学校の規模が小さいのが特徴。例えば、道内全体の小学校のうち、一つの学校で児童数49人以下の学校が平成29年度では33%を占めます。これは相当小さい学校です。また、全生徒が50人以上240人以下までの小学校、つまり学年平均して1学年1学級のみで、2学級がないという学校が42%あります。これらを合わせると7割以上の学校が規模の小さい学校ということになります。今後さらに人口減少が進んでくると、学級減どころか学校自体の統廃合に取り組まざるを得ない、ということにもなります。

 また、1学年1学級しかないとなれば、例えば、進級するにしてもクラス替えがないなど子供たちが持つ多様なコミュニティーの形成が物理的に難しくなってくるという面があります。子供たちが卒業し社会に出てさまざまな人と接点を持たざるを得ないとき、そのための力をどう育てていくか。学校教育現場の先生たちと意見交換すると、都市部の学校のように学年に数学級ある所であれば、クラス替えの中で新しい友達をつくり、コミュニケーション力や人間関係を築く力を高めていくこともできますが、小規模校では新しい友人をつくるという環境を整備することが難しいとの声を聞くこともあります。そういった問題をどのように解決するかという課題があります。

教師の立場から言えば、どのような課題がありますか。

 前述したように北海道は広域であるため、地域によって先生たちの年齢層にアンバランスな側面が見られます。北海道は現在14の地域(管内)に分けられていますが、例えば、平成27年度の空知管内の年齢別教諭数を見ると30代後半から50代にかけての教諭数は多いのですが、20代から30代にかけての教諭は非常に少ない。一方、根室管内は20代から40代前半の教諭数は多いものの、40代後半以降の教諭が少ない。このように地域によって教諭層が年齢別に偏りが出ています。かつては、若い先生に対しては中堅の先生が教え、さらにそれらの先生方を、50代のベテランの先生が支えるといった構図がありました。職員室が多様な年齢の教師で構成されていました。しかし、今はそれができない状況も出てきているので、逆に学校運営の在り方を考えていく必要があります。

 また、北海道のもう一つの課題は、広域性をどう克服するかということです。例えば、札幌を会場として、あるテーマに対し、全道の若い教師を集めて研修会を行おうとすると、どうしても日数が長くなってしまう。3日間の研修で宗谷管内や根室管内などから札幌に来るとなれば往復だけで2日間を要する地域もあることから、移動と研修でおよそ1週間を要してしまいます。一方、現地の学校からすれば、担当の教諭が1週間も不在になると、その余波が生徒や他の教諭に負担となってきます。小規模校で一人の先生が一週間も学校を空けることは極めて難しいことですね。近年は情報化が進んでいるため、インターネットやテレビ会議などもできるようになってきましたが、そうした情報機器を利用しながら都市と地域あるいは地域同士が、効率・効果的な連携の在り方を研究開発しているところです。

先程、学校の統廃合という話が出ていましたが、地域から学校がなくなるというのは、地域の街づくりという点でもマイナスになりますね。

 学校というのは地域の方々にとって学び通った場所であり、人生の基盤をつくった所。思い出も含めて学校がなくなるということは、地域の人にとってみれば自分の足元が揺らぐような感覚をお持ちになる方もいらっしゃるのではないかと感じています。ただ、今後、子供の数が減ってくると学校統廃合せざるを得ない状況も出てくると思います。その中で、自治体としてどう学校を維持していくのか考えなくてはいけなくなっています。

人口減少に伴って学校の小規模化が進んでくる中で教師の在り方、モチベーションの持ち方が非常に重要になってきますね。

 私自身、長野県の山村の生まれで母校の小学校は分校だったのですが、今はなくなっています。子供たちにとって小さな町では、自分の家族や地域の大人は顔見知りなのです。そうした中で、全く知らない大人の人との出会いは学校に入学した時の担任の先生と言っていいでしょう。したがって、初めて出会う大人の生き様は、子供の生き方にさまざまな影響を与えます。だからこそ、そうした子供たちに初めて出会う教師は、まず、教育に対して崇高な理念を持っているべきであるし、また、地域の子供たちへの期待と責任を持っておらなければならない。さらに、その地域の歴史や産業をよく知らなければならない。

 仮に、都会出身の教師であったとしても、その地域の人々の思いを知ろうとする意識が必要です。つまり、教師は、地域を担う人材を地域の人と共に育てているという自覚を持たなければならない。そういう意味で教師は、非常に責任ある立場にあります。

 各地域に勤務する先生たちが、日々の仕事に旺盛な研究心を持ちながら、自らに資質・能力を成長させ続けることができるよう、当研究所としても、「現場第一主義で未来教育の創造を」のスローガンに基づき、精力的に研究、研修の充実に取り組んでいく覚悟です。