「親子の架け橋一筆啓上『親子の手紙』」

100字の中に、ほのぼの親子の情愛

子供の反抗期、親の病気、素直に表現

 小中学生と保護者が、短い手紙で互いの思いをつづる「親子の架け橋一筆啓上『親子の手紙』」が静かな話題を呼んでいる。石川県教育委員会の「心の教育推進協議会」が続けている取り組みで、今年で21年目を迎え、今年度は過去最高の3万点弱の応募があった。このほど優秀賞10組が表彰され、受賞した親子がそれぞれの手紙を朗読すると、会場はほのぼのとした情愛に包まれた。(日下一彦)

石川県教委「心の教育推進協議会」取り組みが21年迎える

過去最高の3万点応募

「親子の架け橋一筆啓上『親子の手紙』」

今年度の小冊子「親子の手紙」

 「もうすぐ反抗期にはいるでしょう。今まで以上に、迷惑をかける事になるでしょう。いっぱい喧嘩するでしょう。それでも、ずっと彩芭(いろは)は、お母さんの事が大好きでしょう。以上、三上彩芭の未来予報でした。」(中学1年 女子)

 「間もなくホームに思春期の彩芭さんが入ります。この思春期は理由もなくイライラしたりする時期でございます。お母さんも通過したので大体の気持ちはわかるつもりです。いっぱい喧嘩をしましょう。」(母)

 難しい年ごろを迎えた母娘の交流だ。娘の成長をしっかりと受け止める母の温かいまなざしが伝わってくる。表彰式が行われた金沢市の県地場産業振興センターの会場を埋めた100人余りの保護者のあちこちで、微(ほほ)笑みが見られた。100字の行間には、親子の情愛がたっぷりと詰まっている。

「親子の架け橋一筆啓上『親子の手紙』」

優秀賞を受けた作品を朗読する親子=11月3日、石川県地場産業振興センター

 この「親子の手紙」は、教育関係者や有識者などから構成される「豊かな心を育む教育推進県民会議」が進める事業の一環で、日ごろ、なかなか口にできない親子の思いを100字以内の「短い手紙」につづり、家族の話し合いを大切にする機運を高めてほしいと平成10年に始まった。今年で21回を数え、過去最高の2万9987点の応募があった。

 夏休みの課題として、あるいは道徳教育の一環として、地域によってはPTAと連携して実施されている。応募資格は県下の小・中学校の児童・生徒とその保護者や家族で、所定の1枚の応募用紙には100字のマスが2カ所あって、その中に親子それぞれが思いをつづる。作品は専門委員らが審査し、入賞作品120点(優秀賞10点、優良賞50点、佳作60点)を決める。優秀、優良賞60点は、90ページ余りの作品集に掲載される。冊子は応募者全員と県内の小学校4年生全員に配付されている。

 中学生や小学校高学年の作品には、思春期特有の複雑な心情やそれに対する保護者の戸惑いが素直に表現されたものや、お互いに理解し合いたいとの思いを伝える作品も見られる。また、面と向かっては言いにくい「ありがとう」「ごめんなさい」の気持ちを言葉で伝える良い機会ともなっている。携帯電話の普及で、手紙を書くことが少なくなってきているだけに、手書きの文章やイラストを親子で交換することは、心のこもる作業にもなっている。

 同事務局は「学校ぐるみで積極的に応募するところが増えました。小冊子も多くの県民に手に取ってもらえるようになり、この運動が徐々に浸透してきたようです」と手応えを感じている。事務局に届いた保護者の感想を見ると、「共感できる親子が何組かあり、子供への接し方の参考になります」「家族のコミュニケーションの大切さを改めて教えられました。こんなふうに考えてあげられたら家族が温かくなれるでしょう」「読んでいると心が温かくなり、大人でもグッときて泣けました。毎年楽しみにしています」などの声が寄せられている。

 優秀賞の作品をもう一点紹介しよう。大病を乗り越えた母子の情が胸を打つ。

 「お母さん、ぼくの事を生んでくれてありがとう。大学に入って、りっぱな大人になるから、見まもっていてね。ぼくが大学に入るまえに死なないでね。これからもよろしく。」(小学3年 男児)

 「あなたが大人になるまで生きることがお母さんの使命です。『生きてくれてありがとう。お母さん、あやまらなくていいよ。生んでくれただけで大好き』急病から助かった時のあなたからの言葉は、今でも心の宝物です。」(母)