平和・人権は希望を作る過程
国際平和研究学会事務局長 児玉克哉さん
「国際平和デー」イベントで講演
先月21日は、国連の定めた「国際平和デー」。人権尊重の啓発に取り組む非営利団体「ユース・フォー・ヒューマンライツ ジャパン」はこの日を記念し、国際平和研究学会事務局長の児玉克哉さんを招き、東京・新宿のサイエントロジー東京で特別講演会を開いた。多種多様な人々を結び付けることを目指す「レインボー・プロジェクト」を立ち上げたいと熱弁を振るった児玉さんの講演要旨を紹介する。(森田清策)
つらいのは希望がないこと
広島出身で被爆2世として広島の問題を扱ってきました。米国が原爆投下後の広島を撮影したカラー映像にも出てくる被爆者の沼田鈴子さんにインタビューした際、時に頭が混乱し、時に涙される中、私に「ありがとう! ありがとう!」とおっしゃった。「どうして『ありがとう』なのですか」と聞くと、こんなことを言っていました。
左足を失い家族を失い絶望に陥り、自分の人生には意味がないと思っていた。ところが、人に自分の被爆体験を話すきっかけがあった。そこで、自分の人生が若い人に役立つことを知り、語り部として中学生や高校生に被爆体験を語り始めた。
被爆で今にも枯れそうな樹木の中から新しい芽が吹く様子を目にして自分と重ね、そこから生きる気力が出た。だから、足が冷えうずいて寝られないことがあるが、それでも語り部をやる。入院してもどこでも体験談を話す。
なぜ「ありがとう」なのか。つまり、自分の命、人生に意味がないと思っていたが、(人に話す機会を与えられたことで)生きがい、人生に光を見いだしたということ。被爆で人生を狂わされたにもかかわらず、新しい希望を見いだした。
私は難民研究もやっているので、もう一つ、難民についてお話しします。ブータン難民はご存じでしょうか。ブータンというと、幸福度世界1位として知られていますが、ネパール人(ネパール語を話す人々)にかなりの人権侵害も行ってきた国でもあるわけです。1990年代に、東部の難民キャンプに10万人を収容させています。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)も入っていて、比較的施設も整っています。水があるし食事もできるのですが、彼らはそこで働いてはいけないのです。働くとその地域の社会構造を崩すからです。単に国連から与えられるものを食べるだけ。これにどれだけの意義があるのでしょうか。
難民キャンプを訪れ、そこの代表を日本に招きました。私が彼を招いた際に、「話を聞いてくれてありがとう」と言われた。つまり、人間というのは、無視されるということが一番つらいのです。
「窓際族」という言葉があります。彼らは働かなくても給料はもらえますが、1週間も耐えられないと言われています。なぜでしょうか。
仕事がしたいのに、「しなくていい」と言われているのです。つまり、自分が必要のない存在だと言われたわけで、その途端、希望がまったくなくなります。人間にとって最もつらいことは希望がないこと。だから、希望を持たせることが大事なのです。
私は映画を作ったことがありますが、差別の悲惨さが描かれていないと批判もされました。しかし、そういうつもりじゃなく、未来に対してどのようなものが作れるかが一番大事。人権あるいは平和というのは、希望をつくる過程で、一緒に未来をつくりたいと思っています。
つらい人は(心が)真っ暗闇になります。これが人権侵害の最も大きな問題です。いろいろな人が分断されています。被爆者同士でもなかなか連帯できないくらいですから。その分断されている時が一番つらい。
文化・芸術活動で一つに結ぶ
そこで私は「レインボー・プロジェクト」を立ち上げようとしています。虹は雨が降ったあとに出てきます。いろいろな問題が出たあと虹が出てきます。虹は懸け橋であり、いろいろなものを結び付けるもの。それをテーマにしていきたい。
芸術や文化活動をすると、そこで新しい展望が見えてきます。それがレインボー・プロジェクトです。社会にはスポーツマンもいますし、銀行家やサラリーマン、企業家、いろいろな人がいます。そういう人たちを一つに結んでやっていければ、と思います。