睡眠負債~その正しい理解~

睡眠評価研究機構代表 白川修一郎氏

世界で一番睡眠時間が短い日本

 「すいみんの日」市民公開講座「睡眠負債~その正しい理解~」(江戸川大学睡眠研究所・柏市共同主催)がこのほど千葉県柏市のアミュゼ柏で行われた。睡眠評価研究機構の白川修一郎代表は「睡眠負債とはなにか」をテーマに睡眠負債の現状と生活への影響について語った。

ヒューマンエラーや健康被害の要因に

睡眠負債~その正しい理解~

睡眠評価研究機構代表 白川修一郎氏

 人間の睡眠の役割について①極度に発達した大脳皮質を効率的に休息させクールダウンさせる働き(覚醒している限りは休息しない)②交感神経系を効率的に休息させ、自律神経機能を再調整する働き③筋肉や運動系を効率的に休息させ、クールダウンさせる働き(疲労因子の排出)④覚醒中に損傷した細胞や心身のシステムを修復し機能を回復させる働き⑤覚醒中に蓄積した脳の老廃物を排出する働き(アルツハイマー病の因子アミロイドβ42タンパク、パーキンソン病の因子αシヌクレイン)――などを挙げ、睡眠は健康維持と抗老化に関しても最大の役割を持つ生命現象の一つだ。

 OECD加盟国の睡眠時間比較で、2009年、日本は先進国で睡眠時間が足りていないワースト2だった。自己申告による健康感はスロバキアに次いで低く、2012年の自殺率は韓国、ハンガリーに次いで3位だった。2018年の国際比較(国民の平均睡眠時間)によると、日本の平均睡眠時間は中国の9時間、韓国の7・7時間、よりも少ない7・3時間でダントツの最下位に、日本の睡眠時間がいかに少ないかを示している。

 平成27年の厚生労働省「国民健康・栄養調査」報告によると、1日の平均睡眠時間が6時間未満の割合はここ数年で増加傾向にあり、20歳以上で39・5%もいた。睡眠の妨げになっていることは、男性で「仕事」、女性で「育児」「家事」が主なものになっている。中高生ではスマートフォン、SNSの利用などで睡眠時間が削られている。健康被害がなく、脳が適切に働くために必要な睡眠時間は年齢によって違うが成人で7~9時間とされている。

 連続した睡眠時間の不足、不眠や睡眠関連呼吸障害、交代勤務での時差ボケ状態などによって睡眠負債が蓄積すると心身の機能を十分に発揮できなくなる。

 仕事上のヒューマンエラーや健康被害が睡眠負債の量に比例して増えてくる。睡眠不足だと、不規則な時間に睡魔に襲われたり、記憶力や思考力が途絶え、効率的な仕事に支障を来すだけでなく、運転する人だと、交通事故につながったりするので、睡眠時間をしっかり、取ることを考えないといけない。

 睡眠負債が脳に与える影響は、集中力・注意力の低下、記憶・学習・認知能力の低下、感情制御能力の低下、自己評価の低下、アルツハイマー型認知症のリスク上昇、パーキンソン病のリスク上昇などが挙げられ、交通事故、認知症、うつ病の要因となる。循環器機能への影響は高血圧の発生リスク上昇、虚血性心疾患のリスク上昇など。免疫機能への影響は乳がんの発生リスク、直腸・結腸がんのリスク上昇、アレルギー性疾患発生のリスク上昇などで、風邪、インフルエンザ、肺炎などの発症リスクになる。

 睡眠負債の蓄積は脳や身体機能への影響だけでなく、社会の重大なリスクとなることが分かってきた。