石川県能登半島で地元の高校生が名人の技を取材

平成29年度 能登の里山里海人「聞き書き」作品集

 「世界農業遺産」に認定された石川県能登半島の高校生たちが、その道の「名人」たちを取材し、冊子にまとめた「平成29年度 能登の里山里海人『聞き書き』作品集」がこのほど発刊された。炭焼きや狩猟、漁業、直売所経営などを生業とする名人たちを高校生が取材し、リポートした内容が掲載されている。彼らにとって「聞き書き」は作業の大変さを感じながらも、名人たちの生業に注ぐ並々ならぬ思いを肌で感じる貴重な体験となった。(日下一彦)

深い感銘受ける貴重な体験/話し手の言葉で臨場感たっぷり

石川県能登半島で地元の高校生が名人の技を取材

高校生たちが取り組んだ「平成29年度能登の里山里海人『聞き書き』作品集」

 「自分たちより年上で社会経験をしている人の人生を他者に伝えることがとても重いことなのだと痛感しました」。これは能登半島の先端、珠洲市で炭焼きに従事している大野長一郎さん(41歳)を取材した県立飯田高校の男子生徒の感想文だ。彼らは取材、録音起こし、それをリポートにまとめる作業は初体験だけに、「大野さんが喋る一字一句が彼の人生全てを物語っており、これを紙上に載せる義務を課せられたのだと思うと、日を追うごとに不安になっていきました」と率直につづっている。

 また、伝統的なボラ漁の継承に取り組む穴水町の岩田正樹さん(69)に聞き取りした同穴水高校の女子生徒は「ボラ漁への熱意がとても強い方でした。千年後までボラ漁を続けていくためのことを考えていました。千年後は3018年です。この地球の上でそんなことを考えているのは、きっと岩田さんだけだと思います」と驚き、「一つのことに強い熱意を向けられることは、すごいことです。私も将来熱中できることを見つけたい」と深い感銘を受けたようだ。

 他にも「名人は人とのつながりを大切にしている」ことに気付き、「直売所では農家の方やお客さんに親しみ深く接している。そこにお客さんを引き付ける力があると感じた。コミュニケーションの大切さを学んだ。今後に生かしたい」(同宝達高校男子生徒)など、いずれも貴重な体験となっている。

石川県能登半島で地元の高校生が名人の技を取材

米飴名人に取材する県立能登高校の生徒たち(写真は石川県里山振興室提供)

 能登の里山里海人の知恵の伝承事業(能登の里山里海人「聞き書き」)は、石川県と能登の4市5町、関係団体で構成する世界農業遺産活用実行委員会が平成24年度からスタートさせた。文字通り、長年にわたって農業や漁業、祭礼、伝統技術の維持・継承、地域の景観、生物多様性の保全などに携わってきた「能登の里山里海人」から、その技や知恵、地域に対する思いなどを地元の高校生が聞き書きし、後世に継承することを目的としている。

 平成29年度版には、「農と祭礼」「自然の恵みと暮らし」「伝統の技と文化」の三つの分野から9人が取り上げられた。県立七尾高校、同羽咋高校、同能登高校など9高校から18人(2人1組、計9組)が取り組んだ。スケジュールを見ると、昨年8月1~3日に「聞き書き」の手法について学ぶ第1回研修が能登町の国民宿舎で開かれ、同8~9月に第2回研修(各自の取材方法など)が行われた。

 聞き書きは話し手の言葉を録音し、一字一句すべてを書き起こした後、話し手の語り調で文章にまとめる手法が取られている。「聞き書き甲子園」(農林水産省・文部科学省・環境省主催)と同じだ。従って、能登の方言が随所に飛び出し、取材の様子が浮かぶようで臨場感たっぷりだ。

 取材後は、録音を何度も聞き直して文字に書き起こしたり、内容が分からないことは各自で調べ直し、さらに2度目の取材の準備をしたりと、「作業は想像していた以上に大変だった」と率直に記している。その一方で、研修では「他校と学習、発表で交流出来、とても良い体験になった」とも。

 完成した冊子は、各名人の作業風景や作業所周辺の景観、近隣の名所地などの写真もふんだんに掲載され、名人を知る上での一助となっている。一般への普及、啓蒙(けいもう)を目指して「能登の里山里海人」のHPに掲載され、過去の分も検索できる。高校生たちによって引き出された「能登の魅力」が味わえる。