北海道教育大の僻地・小規模校実習、参加学生が地方の優位性を体感

 全国各地で小中学校の小規模校化が進み、特に北海道は僻地・小規模校が全体の半数を超えている。北海道教育大学では、同大生に僻地(へきち)・小規模校の教育実習を積極的に体験させることで、その理解を深めさせ、地域に生きる教育者としての意識喚起を促している。今月上旬には同大生による体験実習報告を含むフォーラムが札幌市内で開催され、僻地における教育の重要性と課題が指摘された。(札幌支局・湯朝 肇)

個々の児童と緊密な関係構築、フォーラムで課題指摘も

参加学生が地方の優位性を体感

ポスターを使っての教育実習報告

 「子供の人数が少ないからこそ、一人ひとりと目を合わせて接することができた」――3月8日、札幌市内で開かれた「平成29年度へき地・小規模校教育フォーラム」(主催、北海道教育大学など4大学)で、僻地校体験実習に参加した北海道教育大学釧路校3年の安原佳奈さんはこう語って僻地校教育の利点を挙げた。安原さんが実習に臨んだ学校は道東にある釧路町立昆布森小学校。実習期間は昨年10月2日から15日までの約2週間、担当した学年は5・6年の複式学級で生徒数は9人。

 同小学校の歴史は古く今年で開校138年を迎える。児童生徒の家庭はほとんどが漁師など、水産業に関わる。そのため同小学校の取り組みも漁協女性部との植樹や港の美化活動、地引き網体験といったように地域との関わりが深い。そうした中で安原さんは実習に当たり、①子供との信頼関係づくり②「学習過程」で主体的な子供を育てる――ことを主眼に置いて取り組んだという。「学年によって教える範囲が違うので、直接指導と間接指導のバランスを取ることの重要性を学びました。また、複式学級の場合、生徒はどうしても一人学習を余儀なくされます。その際に子供たちが自力で問題を解く力を育成することの大切さを知りました」と語る。

 フォーラムでは第1部で3人の実習生による報告がなされた後、第2部では前半と後半に分けてポスターを使っての報告が6例実施された。そのうちの1人、北海道の離島の一つである礼文島にある礼文町立香深井小学校で実習を行った同大札幌校4年の後藤しおりさんは「何よりも地域の自然環境が素晴らしいこと。そして学校と地域、児童生徒の家庭の連携が非常に深い」と思い出を語る。

 香深井小学校は全校生徒数が10人。後藤さんの実習期間は8月21日から25日までの5日間。同大2年生の時に僻地校実習を体験し、それをきっかけに北海道での勤務を決意する。その際に、「実習で複式授業を経験するなら、離島で行いたい」との思いで同小学校を希望した。実習期間では単式授業を1回、複式授業を3回ほど行った。そこでは、学年別指導で学習や指導をずらして行う「ずらし」、また、複数の学年を行ったり来たりする「わたり」のタイミングや時間配分の難しさを体験。また、児童生徒が自力で解決するための時間を十分に確保しているか、といった見極めの大切さを学んだという。

 僻地の小規模校は、豊かな自然や地域のつながりの深さといった利点はあるものの、都市部との交通アクセスの不便さや経済的・文化的側面で恵まれない状況にあるのも事実。また、教員数の不足や生徒数の少なさから大規模な集団活動に困難がある。そうした諸条件に解決の道を探ろうと北海道教育大学釧路校の川前あゆみ准教授は東京学芸大学、大阪教育大学、愛知教育大学と連携を持ち、「HATOへき地・小規模校教育プロジェクト」を2008年に立ち上げた。ここでは、「へき地校体験実習」プログラムモデルの構築と実習指導に活用する教材開発、連携4大学への「へき地・小規模校教育」に関する“出前授業”実践と連携4大学における多様な学習による教育効果の検証などが行われている。

 この日は、「出前授業」の実例として、北海道教育大学旭川校の芳賀均講師と同校の学生がアウトリーチによる地域貢献としての音楽演奏を実演。身近にある道具を使って演奏も披露した。芳賀講師は、「地域に出掛けて音楽演奏することで学生の地域に対する興味や関心、愛着や親近感が高まる」と語る。

 今回のプロジェクトについて川前准教授は、「プロジェクトは10年で一つの区切りを付けますが、さらにバージョンアップさせて僻地・小規模校教育に取り組んでいきたい」と語る。僻地・小規模校の教育は特定地域のことではなく、今後は札幌のような大都市の学校でも自分の学校の問題として考えなければならなくなってくる。