韓国財界・市民団体、南北交流・協力に前のめり

 先月の平昌冬季五輪で北朝鮮が微笑外交を展開したことを契機に朝鮮半島に融和ムードが広がる中、韓国では財界や市民団体などが北朝鮮との経済協力や文化交流を再開させる動きが出始めた。北朝鮮が武力挑発路線を放棄しない限り、交流・協力は制裁の無力化につながる公算が強いが、これを戒める声はあまり聞かれない。
(ソウル・上田勇実、写真も)

融和ムードで再開準備
制裁無力化の戒め聞かれず

 金剛山観光や開城工業団地など北朝鮮を相手にした経済協力事業を業務の柱とする財閥系の現代峨山はこのほど、最近の南北関係と関連し「これまでの問題が解決されることを期待する。(南北関係に)一喜一憂せず淡々と準備していく」とするコメントを出したという。

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北朝鮮の金剛山観光特区で大根などの野菜を栽培する南北共同農場のビニールハウスを視察するソウル外国特派員協会のツアー参加者たち=2006年10月

 金剛山観光は保守系の李明博政権が発足した2008年に起きた韓国人女性観光客射殺事件をきっかけに中断されたまま現在に至っている。一方の開城工業団地は北の武力挑発に断固たる姿勢で臨んだ朴槿恵政権下、核実験や弾道ミサイル発射のあおりを受け16年に運用を停止した。

 金剛山観光や開城工業団地は北にとってだけでなく、同社にとってもドル箱同然。だが、射殺事件ではついに北による謝罪や再発防止の約束がなく、北に施設が差し押さえられた。開城工業団地も韓国入居企業の撤収後、一方的に北が軍事統制地域に指定し、秘密裏に操業再開したことまで明らかになっている。

 北に散々翻弄(ほんろう)された経緯からして同社が「一喜一憂せず」と慎重なのは十分理解できるが、本音では南北対話再開を「停滞ムードを払拭(ふっしょく)できる絶好のチャンス」(韓国メディア)と捉えているのだろう。

 来月末に開催予定の第3回南北首脳会談では議題から経済協力が除外されるという。これは国連の対北制裁決議や各国の対北独自制裁を意識し、経済協力を持ち出すのは時期尚早と判断したためだ。6月に実施される統一地方選を前に、文在寅政権が北への一方的支援に踏み切ったという批判を受けたくないとの計算も働いているとみられる。

 ただ、交流・協力に携わってきた民間や地方自治体などは前のめり気味だ。制裁がネックになって政府は表立って交流・協力にゴーサインを出せないが、首脳会談を経て地方選で与党が勝てば風向きが変わるとみているようだ。趙明均統一相も先日、「少し時間が必要」との認識を示し、ことは時間の問題であることをほのめかしている。

 平昌五輪の際、竹島入りの「統一旗」搬入などで北側と暗黙の反日連帯を見せた革新系市民団体「6・15共同宣言実践南側委員会」は今月28日に平壌で北側委員会などと会議を行う計画だったが、政府の慰留で延期となった。

 地方自治体も南北交流事業の再開に前向きなところが少なくない。一部報道によれば、朴元淳ソウル市長の場合、先の北特使団が朴市長の平壌訪問を招請していたことが明らかになっており、朴市長は市役所全職員の前で「首脳会談後にソウル市の役割があれば積極的にやりたい」と述べたという。

 このほか教育界でも交流促進の動きがある。対北融和世論が多い南西部の光州市では教育行政を司る光州市教育庁が「民族の同質性回復」を目的に市内公立学校の修学旅行先に北朝鮮を許容するよう青瓦台(大統領府)などに提案書を送ったという。

 こうした南北交流・協力の再開準備による影響は株式市場にも波及している。ソウル株式市場では一部の関連銘柄が急騰し、取引制限措置が講じられた。ちなみに日本では南北首脳会談開催合意のニュースで地政学リスクが後退したとの見方から防衛関連銘柄が一時売られる展開になった。

 南北・米朝首脳会談の日程などから南北交流・協力再開に対する期待はしばらく続きそうだ。民間シンクタンクの現代経済研究院は南北首脳会談の主要議題に経済協力も挙げ、「国際社会の支持と理解」を前提に「開城工業団地の再開も考慮できる」と指摘した。

 北としてはすでに文政権が平昌五輪の際に制裁対象だった金正恩・朝鮮労働党委員長の妹、与正氏の入境や大型船「万景峰92号」の入港などを「例外措置」として受け入れ、韓国の対北制裁に風穴を開けた状態だ。交流・協力に前のめりになっている韓国の今の状況をさらなる制裁緩和につなげようとするとみられる。