石川県立輪島漆芸技術研修所が研修生の作品展
金沢市の「石川県政記念しいのき迎賓館」で開催
金沢市の「石川県政記念しいのき迎賓館」では、石川県立輪島漆芸技術研修所(輪島市)の卒業生による作品展が開かれている。同研修所は重要無形文化財保持者(人間国宝)の技術の伝承者を養成する施設で、会場の1階ギャラリーAには、漆芸の高度な技を継承し、作家を目指す研修生の力作が並び、来場者の感動を呼んでいる。(日下一彦)
継承する人間国宝の技、来館者を魅了
平成29年度卒業生の力作揃う
同研修所は2年制の特別研修課程と3年制の普通研修課程があり、特別研修課程では漆工品の制作に必要な基礎から作品づくりまでを幅広く学び、技術の修得を目指している。未経験者でも入所できる。一方、普通研修課程は基礎技術の修得者を対象に、★地(そじ)、●漆(きゅうしつ)、蒔絵(まきえ)、沈金(ちんきん)の各技法で認定を受けた人間国宝に直接指導を受ける。
展示されているのは平成29年度卒業生の作品で、両課程合わせて24人が制作した34点が並んでいる。各作品には担当した講師の寸評が添えられ、モチーフや作風、技法なども簡潔に解説されており、作品理解の手ほどきになっている。
★地科・菅野幸江さんの「竹六ツ目拭漆欅箱(たけむつめふきうるしけやきばこ)」は、欅の板を直方体に組み合わせた指物(さしもの)で、木目の文様が見事に浮かび上がり、漆工芸の魅力であるボディの大切を表現している。
指物は職人が作った素材を使うのが一般的だが、菅野さんは自身の構想を生かすため、指物作りから取り組み、そのために専用のカンナなど刃物作りから始めた。作品への強いこだわりが伝わってくる。蓋(ふた)の中央部には細い竹ひごを編んだ「竹六ツ目」模様が施されている。「帯状に配した竹編みと地の拭漆が程良く対照を成す。各部のバランスを詳細に詰め、全体にすっきり仕上げた」(講師評)。
●漆科の小椋朱織さんの朱塗重箱「薫風」は、朱塗の重箱で確かな技術が見て取れる。天然の板材は乾燥すると曲がりやすく、狂いが生じやすいが、重箱の各面をきちっと調整して仕上げている。「二枚の盆も重ねられるようになっている。胴張りで高さもあり量感のある器形になっている」(講師評)。
蒔絵科の川瀬友香梨さんの蒔絵葉書箱「夢路」は、研出蒔絵の技法を駆使して、庭に咲く沈丁花をモチーフに、花びらは白い厚貝を糸ノコで一枚一枚切ってはめ込んでいる。地道な作業をコツコツと積み重ね、螺鈿(らでん)の持つ良さを伝えている。「難しい仕事を確実にこなし完成した」(講師評)。
沈金科の井戸悠生さんの沈金箱「夏天(かてん)」は、ゴーヤの実や花をモチーフにした。沈金は模様を毛彫りした中に金粉を埋め込み、光の濃淡を表現する地道な作業だ。「授業を積極的に取り組む姿勢が成果を生む。作品は深みが足りない点はあるが、しなやかな手さばきは将来頼もしい」(講師評)。
このように伝統的な技法に、それぞれの個性を加えた作品群が来館者を魅了している。指導する講師陣は所長の前史雄氏(沈金)を筆頭に、主任講師には川北良造氏(木工芸)、小森邦衞氏(●漆)、北村昭斎氏(螺鈿(らでん))、室瀬和美氏(蒔絵)ら9人の人間国宝が名をそろえる。これに作家や職人らその道の専門家が教え、職員は研修生とほぼ同数とあって、きめ細かな指導が行き届いている。普通研修課程では実技の他、臨時主任講師による茶道、華道、工芸史、書道、製図、デザインなどの特別講義も組まれている。募集人員は普通研修課程は各科5人以内、特別研修課程が10人以内となっている。
同研修所は昭和42(1967)年に輪島市立として開設し、同47年に県に移管され、昨年10月に創立50年を迎えた。人間国宝の高度な技の継承とともに、漆芸技術の保存育成、調査研究、資料収集などの事業も行い、香川県高松市の香川県漆芸研究所とともに、日本の漆芸技術を継承する上で欠かせない施設だ。卒業生は現在845人を数え、日本伝統工芸展や日本美術展などの中央展に延べ252人が入選を果たしている。同展は3月21日(祝)まで、入場無料。時間は午前10時から午後6時(最終日は正午まで)。
★=木へんに素に
●=鬚の須を休に