施設養護から家庭的養育へ転換
新しい社会的養育ビジョンの今後
児童福祉法が改正され、施設養護から家庭的養育へ、大きな転換が図られた。乳児院や児童養護施設の機能を里親委託や特別養子縁組で代替していく方向だ。これからの社会的養育が目指すもの、今後の課題を探る。(横田 翠)
里親委託を欧米並みの75%に
虐待等の理由で一時保護となる保護件数は年間約2万3000件。この10年で保護児童数は1・6倍に増えた。現在、約3万人の子供たちが乳児院や児童養護施設で暮らす。
11月19日、東京・新宿区で厚労省、児童相談所(児相)やNPO法人の社会養護の関係者らが会し、「Living in Peace こどもフォーラム2017」(認定NPO法人Living in Peace主催)が開かれ、要保護児童の養育をめぐって熱い議論が交わされた。
改正児童福祉法では、「子どもの権利」を尊重し、子供の最善の利益を最優先に「家庭と同様の環境における養育の推進」が盛り込まれた。8月に厚労省が公表した「新しい社会的養育ビジョン」(ビジョン)では施設への新規入所の停止、里親委託率を3歳未満は5年以内に75%、それ以外の未就学児は7年以内に75%、学童期以降は10年以内に50%以上という高い数値目標が示された。
シンポジウムの冒頭、鳥取こども学園理事長・藤野興一氏は「11月の鳥取大会(全国児童養護施設長研究協議会)はビジョン一色だった」と、関係者に与えた衝撃を代弁した。
ビジョンを取りまとめた国立成育医療研究センター部長・奥山眞紀子氏は、「子供中心にあるべき姿を考える。それを反映したのがビジョンとなった。児相も一時保護所も変わっていかなければならない」と、子供の健全発達が保障される養育環境の重要性を強調した。
児童養護施設や一時保護所については一般に知られていない。Living in Peace理事長の慎泰俊氏は各所の施設を取材し、著書『ルポ 児童相談所』(ちくま新書)でその実態を伝えている。氏によると、刑務所のように管理的な施設もあれば緩い家庭的施設もあり、施設間の格差が大きいという。概して子供の権利を侵害する状況があるのが実態だ。
こうした施設養護が抱える課題を克服し、すべての子供が家庭的環境で養育できるようにというのがビジョンの趣旨である。
里親委託率を見ると主要国は5割超、米国8割、英国7割だ。一方、日本は平成27年で17・5%。自治体間の開きも大きい。静岡市やさいたま市など、この10年間で委託率が3倍以上に伸びた自治体もあり、取り組み方次第である。奥山氏は「子供の校区を変えないために校区に一つ。2万人の里親が必要」とした。
現在の4倍以上にするとなれば、地域の里親を育てる里親エージェンシーが重要だ。永続的で安定した養育環境を保障するという意味でも「施設の専門性が絶対に必要」(藤野氏)とし、厚労省子ども家庭局審議官の山本麻里氏は「施設は高機能化、里親支援等の多機能化を進めることであって、施設をなくすことではない。児相がフォスタリングエージェンシーを担っていく可能性はあり得る」とした。
実際に里親登録しても里親になるのは4割ほど。ベアホープ代表理事で、実子2人里親2人の養育里親であるロング朋子氏は、里親受託が進まない理由を「育てやすい子、かわいい子。里親は子供を選ぶ」「思いがあっても、里親は普通の夫婦であり、子育ての経験もないと、実際委託は怖い。里親の力量不足もあり、課題が起きやすい」と施設側の支援が必要とした。
過去にも里親委託されたものの、里親をたらい回しにされる事例が起こっている。家庭的養育を原則に、子供一人ひとりの状況に応じた適切な対処が求められる。
実親が育てられない子供を養親が実子として育てる特別養子縁組については、5年以内に倍増の1000件以上を目標に掲げている。法務省は特別養子縁組の対象年齢6歳未満を引き上げる方向だが、血縁重視の日本では簡単ではない。
また児相への虐待相談の95%は在宅支援という形を取っている。虐待を起こさせない家庭をつくっていく、地域全体で困難家庭を支える仕組みが必要だ。施設が担ってきた社会的養護の役割を、施設の専門性を借りながら、民間のNPO法人や地域ボランティアがどう担っていけるかが、大きなカギとなる。







