毎年恒例、小松市内の中学校が「勧進帳」を上演

「歌舞伎のまち」石川県小松市で

10校で持ち回り、裏方含め1年間の成果披露

 「歌舞伎のまち」で知られる石川県小松市では、市内の中学校が毎年秋、持ち回りで歌舞伎「勧進帳」を上演している。今年の当番校は安宅中学校で、義経や弁慶などの役者はもちろん、長唄や三味線などの地方(じかた)、さらに着付けからメーク、そして広報活動まで3年生が中心となって準備している。上演は来月5日の同校創立40周年の記念式典と翌日の「中学校古典教室」の2回。毎年、生徒が一丸となって取り組む舞台は大きな感動を呼んでいる。(日下一彦)

ふるさとの文化継承・発展目指し「古典教室」

毎年恒例、小松市内の中学校が「勧進帳」を上演

子供役者による歌舞伎「勧進帳」の一場面=石川県小松市のこまつ芸術劇場うらら

 「中学校古典教室」は小松市が弁慶・義経ゆかりの地であることから、生徒たちの古典芸能への関心を高めるとともに、ふるさとの伝統文化の継承・発展を目指して開かれており、市内10中学校が持ち回りで「勧進帳」を上演している。昭和61年(1986)に始まり、今年で32回を数え、今回の当番校は安宅中学校だ。「勧進帳」の舞台とされる「安宅の関」が校下にあり、徒歩で10分余り、市内の中学校では最も近い。

 上演は3年生71人全員が取り組み、夏休み前の7月14日に初稽古し、芝居の流れや芝居への基本姿勢などを学び、発声練習に取り組んできた。囃子(はやし)や長唄は、昨年9月から稽古を積み重ねている。初稽古の後は夏休み返上で、役者、地方に分かれてほぼ毎日のように稽古してきた。本番前の10月は2回の総稽古を行い、上演前日には会場のJR小松駅前の「こまつ芸術劇場うらら」でリハーサルを行う。

 「中学校古典教室」の特徴は、当番校では3年生を中心に、役者や囃子方、衣装やメーク、さらに広報活動まで上演に至るほとんどすべてを生徒たちが準備することだ。しかも、3年生は一人一役の任務を決めて分担している。また1、2年生も役者名を書いた幟(のぼり)旗作りや会場を彩るモニュメントの設営、パンフレットの作製などを担当し、当番校はまさに全校挙げての“10年に1度”の大イベントだ。

 市学校教育課では、継続して開催する意義について、次の3点を指摘する。まず、①日本の古典芸能に深く触れ親しむ機会になる。同市にはおよそ250年間続く子供歌舞伎があり、また各町内の祭りでは子供獅子を舞ったり、笛や太鼓を奏じている。そんな背景を受けて、それらを鑑賞するだけでなく、自ら演じて発信していく中で、伝統文化の奥深さを体感し、より深く理解するとともに、一人でも多くの子供たちに関心を持ってもらいたい。

 また、②すべてがアマチュアで、力を合わせて一つのものを作り上げる喜びがある。役者の生徒はもちろん、長唄・三味線・囃子方や衣装・メーク・かつらなど舞台の裏方、そして指導する先生たちも含めて、経験の長短はあってもすべてがアマチュアの集団。歌舞伎役者が人生を懸けて取り組むような大舞台を、わずか4~5カ月の練習で演じ切る。

 さらに、③学校教育の一つとして行われる活動であることだ。役名や係分担の希望は取るが、「勧進帳」を作り上げるのは中学生“全員”。多少の経験がある生徒もいれば、ずぶの素人もたくさんいる。しかも身体能力や音感に優れた生徒もいればそうでない生徒もいる。さらに、意識の高い生徒もいればあまり意欲を持てない生徒もいるのが現状。そういった人間集団が、この活動を通して自分の役割を自覚し、互いに協働し、高みを目指して切磋琢磨(せっさたくま)していく。それはきっと、生徒たちの人生においても大きな糧となるだろう。

 これまでの上演で同課に寄せられた保護者や市民の感想を見ると、「中学生とは思えないほどの演技に涙が出ました。裏方があってこその主役です。主役も裏方もご苦労さまでした。感動しました」「役者だけでなく、囃子・長唄、衣装・メーク、裏方さんまで、すべての人の力が結集し、素晴らしいチームワークの舞台でした」。

 「迫力ある演技に圧倒されました。小松に生まれ、歌舞伎に近い環境に育ち、さらに10年に1度の機会に恵まれ、とてもラッキーでした」「よくもこれだけの演技ができたものと感激しました。弁慶、富樫、義経はじめ各役者、スタッフみなさんが心を一つにして立派な出来だったと思います。きっとこれからの人生に大きな財産になることでしょう」などだ。

 かつて演じた卒業生からも、「膨大なせりふを覚えて役をやりきったことが自信になった」「最後までやり抜く気持ちが身に付いた」「舞台を通じてとても仲良くなれた」「みんなで一つのものを作り上げる喜びを体験した」との声が寄せられている。