「養育格差」改善のカギは家庭の安定
人格教育フォーラムで鍋田氏が講演
人格教育の実践を志す教師や教育関係者が集い、第28回人格教育フォーラム(主催・一般社団法人・平和政策研究所「圓一」編集委員会)が東京都千代田区の弘済会館でこのほど開かれた。今回の講演は精神科医、臨床心理士として活動、青山渋谷メディカルクリニックの鍋田恭孝名誉院長が「『養育格差社会』をどう克服するか―家庭と行政、地域社会の役割―」と題して講演した。
過干渉せず、きちんと見て育む
心身医学、臨床心理学、児童・青年期精神医学、うつ病臨床の場で多くの患者を診てきた経験から、鍋田氏は「現代の若者の特徴として、優しくて傷つきやすい、不器用でグズ、素直で良い子が多い」という。
5歳から10歳前後の学童期に基本的な人間性・性格が固まる。その時期の親の育て方で大まかな人格形成がなされる。少子化、核家族化が進み、家族構成が3人以下の世帯が7割を超えると言われている。独身、一人っ子、母子、父子の家庭が増え、親兄弟姉妹との関係が構築できず、「お手伝い」も必要なくなってきている。
こうした中、経済格差の問題がよく取り上げられるが、それ以上に深刻なのは養育格差だという。鍋田氏は養育格差には三つの段階があるという。
一つ目は最悪な「ほったらかし家庭」。親の身勝手な結婚・離婚、ドメスティックバイオレンスなどで片親になり、お金だけ渡され、勝手に食べ物を買ってきなさい、とほったらかしにされてきた子供。親は生きていくことに必死で子供の面倒を見れない。
二つ目が「過干渉」な家庭。大事にされ過ぎ、親の敷いた人生の設計図の上をひたすら走らせる家庭。親の見栄や世間体を優先して、子供に考えたり、行動を起こす機会を失わせる。親とは違う自分の意見を持つようになる「思春期」に自分で判断しなければならない時に、適応障害を起こして不登校などになってしまう。これらの両極端は少数派かもしれないが、明らかに増えてきている。そして、その中間が比較的健康な段階で、大切に育てられ、しつけもされている。
鍋田氏は教育格差を改善するには、「母親」あるいは「母親的存在」の重要性を説く。子供が育つ上で、母親の心が安定して、熱心に関わることが必要で、「ガミガミ子供を追い立てるのではなく」ある程度余裕があって、子供のことをゆっくり考え、しっかりとコミットできる環境をつくってあげることが大切。父親は役に立たないことも多いが、大所高所に立って、子供が失敗したり、挫折したり、意見が合わない時など自己肯定感を持たせるよう「大丈夫だよ、僕はそれで良いと思うよ」とサポートしてあげることではないだろうかと家庭の大切さを語った。