土器づくりで体感する古代の世界

北海道博物館などがワークショップ

 1万年以上続いたといわれる縄文時代が静かなブームとなっている昨今、実際に縄文土器を作って「縄文の世界」を体験する「ちゃれんがワークショップ」(主催、北海道博物館など)が、このほど江別市内で開かれた。粘土を捏(こ)ねて器を作り乾燥させて、実際に焼いていくという作業を、大人や地元の小学生も加わって行った。(札幌支局・湯朝 肇)

静かなブームの縄文時代/「土を焼く」ことが生活に密着

土器づくりで体感する古代の世界

「てり焼き」された土器の間に薪を入れる子供たち

 「僕が作った土器はどこに行ったのかな」-7月2日、札幌の隣町・江別市内にある江別セラミックアートセンターで開かれた「ちゃれんがワークショップ 縄文土器つくり」で、自ら作った土器を探す小学生の一人がこうつぶやいた。「ちゃれんが」とは北海道博物館の愛称。同館では約10年前から「縄文土器つくり」の体験事業を行っている。この日は、同博物館の参加者と江別市郷土資料館のメンバーが集まり、約100人が縄文土器の野焼きに挑戦した。

 ところで縄文土器作りは一日の作業では終わらない。もちろん、粘土の採取や薪の準備もあるが、まず乾燥した粘土を細かく砕き、水と砂を加えてよく捏ねるという作業が必要だ。さらに粘土を捏ねて土器を模ったとしてもそれを十分に乾燥させなければならない。その作業を「ねかせる」というが、その期間に最低2週間を要する。乾燥が不十分だと土器を焼く際に土器が割れてしまうのである。実はこのワークショップでは、6月4日に北海道博物館で「『粘土をこねる』から『土器に文様をつける』まで」の作業を終え、7月2日は土器を焼く「野焼き」体験を行った。

 「野焼き」は、会場となった江別セラミックアートセンターの中庭に「火床」を作り、乾燥した土器を火床の周りに置いていく。いわゆる「てり焼き」の状態で土器を熱することで土器に含まれている水分を取り払っていくのである。灰色になった土器が徐々にチョコレート色に変わっていくが、十分に土器の中の水気を飛ばした後、火床に土器を入れていく。そこに土器が覆いかぶさるまで小枝や薪を丁寧に入れていく。しばらくすると薪は勢いよく炎を出しながら燃えていくが、すっかり灰になるまで待つと中からオレンジ色に変わったきれいな土器が出来上がる。

土器づくりで体感する古代の世界

出来上がった縄文土器の一群

 一連の作業が終わるまでおよそ4時間の行程だが、作った土器がきちんとできているか、みんな待ち遠しくてたまらないという様子。札幌市内から参加した小学生の一人は、「お母さんと一緒に土器が割れていないか心配だった。でもきれいに出来上がったのでうれしい」と話す。出来上がった作品は、土器以外に土偶や勾玉(まがたま)などまるで縄文の現代アートといった様子だ。

 北海道博物館は土器作りの他に、縄文時代の「火おこし」や黒曜石などを用いた「石器つくり」体験を行っており、今回のワークショップについて北海道博物館の右代啓視・主任学芸員は「人類は土器を作ることで生活様式ががらりと変わりました。北海道にはその縄文時代の遺跡が幾つも見つかっています。江別は江別太遺跡という有名な遺跡があり、良質の粘土があることでも知られています。大昔、縄文の人々がどのような思いをもって土器を作っていったのかを考えることはとても意義があること」と語る。

 一方、今回、北海道博物館と共催した江別市郷土資料館の櫛田智幸館長は、「当館では市内の子供たちを集めて、『子ども学芸員カレッジ』を開設しており、今回の土器作りもその一つとなっています。江別は開拓時代かられんが造りの町として有名ですが、大昔から『土を焼く』ことが生活と密着していました。そんな郷土の歴史を子供たちに知ってほしい」と話す。

 北海道は現在、青森・秋田・岩手の北東北3県と共に北海道・北東北縄文遺跡群の世界文化遺産登録を目指し普及活動が進められている。ただ、それが実現するには、まず北海道民が縄文時代の生活様式や精神世界を知る必要がある。そうした点を踏まえても同博物館などの縄文時代の体験事業は極めて有効な取り組みだ。