「自ら問い続ける生徒の育成」主題に研究会

「自ら問い続ける生徒の育成」主題に研究会

千葉大学附属中学校で行われている「考え討論する」理科の授業の様子

 「自ら問い続ける生徒の育成~新しい時代を生き抜くための『実践知』を培う授業のあり方~」を主題とする千葉大学附属中学校教育研究会がこのほど開かれ、関東近県だけでなく、全国から教育関係者300人が参加。生涯にわたって使える「実践知」について考える時間を共有した。


千葉大学附属中の研究主任・荒川恵美教諭

生涯学び続ける「実践知」

「自ら問い続ける生徒の育成」主題に研究会

全体概要説明を行う荒川恵美教諭

 千葉大学附属中学研究主任の荒川恵美教諭が同校が進める「実践知」について語った。

 自ら問い続けるとは、学ぶ生徒の理想的姿であり、自己教育力を持つ生徒と言える。問うことは同時に、考えることであり、考えることは常に問い掛けから始まる。新しい時代には、常に問いを持ちながら、社会の問題を自分の問題として捉えられる生徒、事象に対して自ら強い関心を持ち、変わっていける生徒の育成を目指している。

 荒川教諭は「現実に使える知『実践知』を持った生徒を育てる授業には七つの特性が必要」という。

 切実性 タイムリーで、リアルな場の設定。必要感を持たせる。

 真正性 本物を見せる、強化の本質に迫る学び。学習過程の場面で、枝葉の問いだったか、本質的だったか、見定める。

 汎用性 以前学習したことを元に、利用・考え、今後に役立つことなのか考える。

 継続性 生涯を懸けて追求していくような課題を見つけ、螺旋(らせん)状に広がっていくことを想定。

 連携性 身近な英語を使う場面を想定する。自己と他者、社会とのつながりを意識させる。

 多義性 同じ課題でも、複数の解決方法を思考することの良さを理解して実行する。

 意外性 時には常識的な見方、考え方を揺さぶる問い、エ~!と思わせるように子供の認識を揺さぶる。

 同校は新しい時代を生き抜く「実践知」を培う授業のあり方、研究を進めてきた。「実践知」とは現実に使える知識とした。変化の激しい時代に持続可能な社会の支えとなり得る、新しい一人一人の行動を育んでいくこと。荒川教諭は「初めて難問と出合う場面で、考えて判断・対応できるか、深い知識を身に付けていくような経験をたくさんすること。既知の知識でも、その意味、そのものを問うこと。生徒個々の新しい物の見方や考え方を育んでいきたい」と研究発表をまとめた。


敬愛大学国際学部教授の向後秀明氏

良いモノは引き継ぎ未来を開く授業を

学習指導要領改定で教員に求められること

「自ら問い続ける生徒の育成」主題に研究会

講演する向後秀明教授

 アクティブラーニング(AL)の現状について向後秀明教授が語った。

 ALという言葉が独り歩きし、誤解を招くのは良くないということで、「主体的」「対話的」「深い」学びと言われるようになったが、本質的に変わったわけではない。全国を回って、現場の話を聞くと、高校で「現行の学習指導要領が始まったばかり。中間地点、次のことを言われても、追い付けません」という声が聞かれる。

 また、「文科省はALという新しいことをしようとしているが、とても新しいものを受け入れる余裕はない」という。中学校の教師は過労死ラインを超えているという調査結果が報道されている。それを重々承知の上で、文科省は学習指導要領の改定を進めている。

 改定のポイントとして全てを新しく、というのではなく、現状で「良いモノ」は何かを整理して、それを引き継ぐべきです。年長の指導の仕方など良いところは若手の先生に引き継ぐべきだ、何を改善しなければならないか、検討・整理が必要だ。ゼロから新たなモノを次期改定で作るというのではない。

 「ALの学習方法を取り入れると、授業が進まない」という声も聞くが、根本的な議論が必要だろう。中心的な柱になるモノがあり、別にALがある、と考えているケースもある。全国学力・学習状況調査(学テ)の調査結果に「自ら、課題設定し、その解決に向け話し合い、まとめ、表現する」と回答した生徒の得点が国語、算数において高い傾向にある。

 3月まで文部科学省の教科調査官として次期学習指導要領の改定に尽力してきた。47都道府県を2周くらい回った経験から教室の雰囲気が非常に硬い。真面目な先生方が多いためだろう。先生と生徒の親和関係が作られていないと、いくら先生の専門性が優れていても、AL活動をすることは不可能に近くなる。

 AL導入により、先生方の授業コントロールが難しくなるのはよく分かる。先生の先走りがあり、生徒が聞き役になっている場合が多い。授業の形式、教科担当者全員で考える教科会議の時間が絶対に必要だ。

 「何ができるようになるか」について、知識のための知識ではなく、生きて働く知識・技能の習得、未知の世界にも対応できる思考力・判断力・表現力、人生や社会・世界との関わりを持った学びに向かう力、人間性の涵養(かんよう)などに分解できる。一番重要なのは、卒業後、生涯にわたって学び続ける人を育てる、というのが根本になっている。

 実社会とのつながりが必要になる。ALで授業を進めていくと、教科書の内容が消化できない、ということになる。ALの資質・能力を育成するために、この教材を使うというので、教科書の順番通りにはいかない。「全てを教え切らなくても良い」と文科省は通知を出している。「何ができるようになるかをはっきりしてくださいね」という意図を含んだものだと向後氏は語った。