シマフクロウなど動物の夜の生態を疑似体験
北海道博物館で「夜の森~ようこそ動物たちの世界へ~」特別展
地方によって異なるが北海道の冬山から雪が無くなるのは、およそ3月下旬から4月中旬。動物たちの活動もその頃から活発になるが、意外に知られていないのが動物の夜の活動だ。そこで北海道立北海道博物館では4月28日から企画テーマ展「夜の森~ようこそ動物たちの世界へ~」(6月4日まで)を開催、シマフクロウやコウモリなど北海道に生息する動物たちの夜の姿を覗(のぞ)くことができる。(札幌支局・湯朝 肇)
エゾシカの光る目やイイズナの捕食、生きているように剥製で演出
「人間は日が沈むと家に帰って休みますが、森の動物たちの多くは日が沈むと元気に動き始めます。北海道に生息する動物たちの夜の活動を知ってほしかった」と語るのは道立北海道博物館学芸員の表渓太さん。4月28日から始まった「夜の森~ようこそ動物たちの世界へ~」を企画した一人で、長い間、シマフクロウやエゾシカなど北海道の動物たちの生態を研究してきた。
企画テーマ展は、森の様子を春から冬、そして春へ、また、夕焼けから夜明けといった時間軸を取り入れて動物たちの夜の生態を紹介している。例えば、最初のコーナーでは春の夕暮れの森を再現。冬眠から出てきたヒグマやコウモリ、さらに樹洞(木に開いた穴)で子育てしながら沢辺で小魚を捕るシマフクロウの様子を紹介。また、夏のコーナーでは、夏だけに現れるミヤマクワガタといった昆虫や南からの渡り鳥が樹液に集まってくる昆虫を捕食するところを展示、森のにぎやかさを表す。そして秋のコーナーでは、薄暗い夜に活動するエゾシカなどをペンライトで照らすと数頭の動物の目が光って見える仕掛けも。また、冬に備えて動き回るタヌキやアカネズミ、希少種とされるイタチ科のイイズナが獲物を捕らえるところも見ることができる。
今回の展示に対して、表学芸員は「今回はシマフクロウやヒグマ、エゾシカなど40体ほどの剥製を使っています。この博物館の周りの森林公園でも夜になれば見掛けることができますが、日中では見掛ける機会が少ないものばかり。札幌近郊でもこうした貴重な動物がいることを知ってほしい」と話す。
この展示期間中には森の動物に関連した研究報告会や自然観察会も実施される。例えば、4月30日には同館内で「北海道と極東ロシアのシマフクロウ」についての最新研究報告があった。報告者の一人である表学芸員は、DNA解析を使って極東ロシアに生息するシマフクロウと北海道のシマフクロウの系統を調べた。すると、「北海道のシマフクロウは、極東ロシアのシマフクロウよりもむしろ、東南アジアに生息するウオミミズクに近いことが分かった」と表学芸員は語る。
また、もう一人の報告者であるシマフクロウ環境研究会代表の竹中健氏は、「かつて北海道の全域に生息したシマフクロウは開発と乱獲によって絶滅寸前にまで減ったが、その後、天然記念物に指定され、巣箱の設置や冬期間の給餌活動などの保護活動によって何とか持ちこたえている状況。ダムに魚道を設ける、あるいはダムのスリット化などシマフクロウが生息できる(小魚の捕食など)環境をつくることが重要だ」と訴える。
アイヌ民族はシマフクロウを「コタン・コロ・カムイ(森を守る神)」と呼び、ヒグマと並んで崇拝していた。確かにシマフクロウが生息する環境には多様で豊かな生態系が共存し、そこではアイヌの人々にも多大な恩恵をもたらしていた。そういう意味でシマフクロウは多様な種の共存を守る「アンブレラ・スピーシーズ(種の傘)」の役割を担っているとされている。今回の「夜の森」をテーマとした展示会は、日常の人間社会とは異なった別世界が身近なところに存在し、それらを知ること、そしてその環境を守ることの重要性を教えてくれる。