スマホ育児が現実のものに


 電車の席に座っていたら、隣で母親に抱っこされていた乳児が筆者の肩に触ってきた。30代初めと思われる母親が恐縮して頭を下げた。子供好きの筆者は「いいですよ」と乳児の頭をなで、「初めてのお子さんですか」と尋ねた。

 たまたま電車の中で隣り合っただけで、声を掛けたら嫌がられるかと思ったが、その母親は「そうなんです。何も分からなくて」と、にこやかに応じてきた。

 聞けば、引っ越したばかりで、周囲には知人が誰もいないとのこと。ご主人が子育てを手伝ってくれるので、それで助かっているという。「お母さん、大変ですね。夫婦仲良くするのが何より」などと、子育ての先輩顔しながら経験談を語る筆者に、その母親は耳を傾けてくれたのが、好印象だった。

 なぜ、見ず知らずの母親に声を掛けたかというと、ある小児科医に取材し、孤独の中で子育てする母親が増えているという話を聞いたばかりだったからだ。そして、孤独な子育ての中で存在感を増しているのがスマホ。かつては親や地域の人から、子育ての知恵を学んだが、今はもっぱらスマホから情報を得ているのだという。

 その話を聞いても半信半疑だったが、先月末に書店に並んだ本『スマホ廃人』(石川結貴)を一読し、認識を改めた。この本によると、乳幼児の睡眠を促す音楽や映像が流れる「寝かしつけ用」アプリがあるという。スマホが子守をしているようなものだ。

 そうかと思えば、母子手帳の電子版・母子健康アプリの提供を主導する自治体がある。さらには人工知能が育児の悩みに回答するシステムも試行中。そんなことから、「スマホなしの育児は考えられない」と話す主婦もいるとか。それでは、赤ちゃんと母親の関わりは希薄になるのは間違いない。そう思うと、背筋が寒くなった。

(森)