北海道教委が取り組む遠隔システムの公開授業

双方向通信で質の高い教育を実演

 急速な人口減少によって自治体そのものが消滅するといわれる中で、そうした危機感を抱くのは北海道も例外ではない。少子高齢化は教育制度そのものに大きな影響を与えつつある。広大な面積を持つ北海道では今、地方の小規模高校をいかに存続させるかが大きな課題となっている。そうした中で北海道教育委員会(道教委)では地方の高校の教育環境の充実に向けた遠隔システムによる取り組みを積極的に行っている。その公開授業がこのほど開かれた。(札幌支局・湯朝 肇)

地方の小規模高校存続に期待の声

予備校の映像配信授業との差別化など焦点に

北海道教委が取り組む遠隔システムの公開授業

双方向通信による遠隔システムを使った公開授業

 「みんな元気。きょうは未来の職業について勉強したいと思います。準備はいいですか」-カメラに向かって話すのは北海道立函館中部高校英語科担当の弦木裕教諭。カメラの向こうで授業を受けているのは道東の道立阿寒高校2年生の生徒たち。大画面のテレビを使い、互いの顔の表情やしぐさを見ながら、時には弦木教諭が黒板を使って説明している風景は、両校の間で遠隔システムを使って授業を行っている様子なのである。

 弦木教諭が受け持っているのは英語の「コミュニケーション英語Ⅰ」という授業。時間内はほとんど英語で進められ、もちろん生徒の受け答えも英語で行う。この日は先生から生徒に「近い将来に消えている(disappear)職業は何か」を挙げてもらうと、「Taxi driver(タクシードライバー)」や「computer engineer(コンピューターエンジニア)など次々と返ってくる。中には「teacher(学校の先生)」といった答えも。将来、AI(人工知能)やヒト型ロボットが普及してくると消えてなくなる職業が出てくるというのである。

 3月21日に行われたこの日の公開授業は、第3回北海道教育推進会議高等学校専門部会の中での「遠隔システムによる教育」の実演の一コマとして、通常の函館中部高校からの発信を江別市内にある北海道立教育研究所附属情報処理教育センターの会議室に移して行われたもので、同専門部会の委員が見守る中での公開授業となった。

 実は、道教委では平成20年度から1学年1学級といった地方の小規模校に対しては、他の高校への通学が困難で、なお進学率が比較的高い学校を地域キャンパス校と位置付け、同一通学区域内のセンター校から教員が地域キャンパス校に出向いて授業を行う出前授業を行っていた。さらに、平成25年度からは文部科学省のプロジェクトとして、4年計画で離島の高校や小規模校における教育水準の維持向上を図るため、映像や音声を双方向でライブ配信できるシステムを活用した遠隔授業について研究開発を実施。現在、道内では阿寒高校の他に平取高校や常呂高校など4校が研究開発校として遠隔授業を行っている。

 3月21日に遠隔システムによる公開授業を受けた阿寒高校の生徒たちの反応は、「テレビ画面を通しての授業だけれど、とても身近な感覚で、しかも新鮮に授業を受けることができるのがいい」「この遠隔システムを利用すれば、道内だけでなく、道外や海外の高校生ともリアルタイムで話し合えるのではないか。そうなれば面白いと思う」といった声が出る。

 一方、「コミュニケーション英語Ⅰ」を担当した弦木教諭は「私は一度も阿寒高校を訪れたことがありませんが、ある意味で普通の授業と変わりはないと思っています。リモコン操作も慣れれば、一人ひとりの表情をつかむことができますし、生徒とは十分にコミュニケーションは取れます」と語る。

 遠隔システムによる授業について、同部会副部会長の篠原岳司・北海道大学大学院教育学研究院准教授は、「遠隔授業が単に大手予備校の映像配信授業のようなものと、いかに差別化が図れるかがポイント。また、地方の高校が地域づくりの核と捉えた場合、遠隔システムによる教育が地方の子供たちの生活環境や地域振興をどれだけカバーできるのか、を考える必要がある」と指摘する。その一方で、専門部会の委員からは、遠隔授業については「地域キャンパス校の教育課程の充実がより図られるので一層充実してほしい」「地方の小規模校は教員数の関係から履修できる範囲が限られてしまう。遠隔授業を使って、幅広い科目で授業が受けられると履修範囲が広がり、進路にも幅が広がる。積極的な利用が必要だ」と期待する声も多かった。

 同専門部会では今後、遠隔システムによる教育を含めて、「地域とつながる高校づくり」「活力と魅力のある高校づくり」をテーマに議論を進め、6月には答申をまとめる予定だ。