なぜ勉強しないといけないの?

国守る若者を受験に勝たせる

プロ家庭教師 平井基之氏に聞く

 「なぜ学校で勉強をしなければいけないのか」。誰しも一度は疑問に思ったことがあるだろう。しかし、納得のいく答えを出せずに悩んだ人は多いのではないか。そこで「国を守るために受験が重要だ」と語るのは、プロ家庭教師の平井基之氏だ。平成15年に東京大学理科一類に、同28年に東京大学文科三類と、東大の文理両方に合格した平井氏に、受験や勉強の意義を聞いた。(聞き手=宗村興一)

戦略思考で結果を出す/社会人になっても活用
「自分が正解になる」勉強を 

国を守るためには受験が重要ということですが、具体的にはどういうことですか。

平井基之

 ひらい・もとゆき 昭和59年、山梨県生まれ。平成15年、東京大学理科一類入学。同28年、東京大学文科三類合格。東大卒業後、大手学習塾での講師や、高校教員を歴任し、指導経験は10年を超える。その後独立し、受験戦略家として家庭教師や講演活動、ブログ配信、お笑い芸人との数学イベント、動画配信など幅広い活動を行う。東大の文理両方に合格し、さらに学校現場や学習塾、家庭教師とさまざまな教育現場を経験している教育者は他に聞かない。

 単純に学力が上がれば、国力も上がると思っている。また、日本の教育はリベラルな教育が多く、そのため政治やマスコミ、教育などの重要ポストにはリベラルな人が多い。それだとバランスが偏るので、保守的な考えも合わせ持ち、将来の日本を支える若者を受験に勝たせ、重要なポストに就かせていく必要がある。

その中でも平井さんは戦略が重要だと強調しています。

 まず、日本人は戦略を習う機会がない。戦略を受験に用いた方が、合格率は上がる。受験生が自然と戦略を用いるようになれば、社会に出ても戦略的に活動するため、国力の上昇につながる。どの分野でも戦略的な思考は重要だ。

 例えば「孫子の兵法」で、落としてはならない城があるという話がある。勝てるからといって、今すぐ勝負するかは別の話。最終的に勝つために、あえて逃げる場合もある。極端な話、テストも最初の問題から解いていくのではなく、「この問題は後回しにしよう」「この問題は部分点で止めておこう」など戦略的に考え、最終的な合格を勝ち取るようにする。昨年私が東大の文系に1年間で合格できたのは、戦略があったからだ。

なぜ2度も東大受験をしたのか?

 子供にばかり勉強させて、自分はゴロゴロしているのではなく、子供よりも率先して学ぶのが先生のあるべき姿だと感じている。1年で東大に苦手な科目で合格するというのは、それに見合う姿勢だと感じたからだ。また、学校で習う勉強は大事なのだが、それだけが大事ではないと感じている。ならば、学校で習う勉強をある程度極めてから発言した方が効果的だと考えている。東大に文理両方で合格した人が、学校の勉強以外にも大切な事があると言った方が説得力がある。

生徒を前に気を付けていることは?

 お母さんに「勉強しなさい」と安易に言いすぎないように頼んでいる。勉強しなさいと言われてやる気の出る子供は基本的にいない。子供がどう感じているかをお母さんに説明し、勉強したくなるような仕掛けを作る。そのためにお母さんと協力して子供に接している。

 お母さんの影響力は非常に大きく、誰も勝てないだろう。ただ、瞬間的に子供にマイナスなことを言ってしまうことはあるし、お母さんもそれは自覚しているので、それをなくしてもらう。だから勉強しろと言いたくなる時に我慢して私が代わりに言うとか、逆に私ではなく、お母さんが言った方が効果がある場合もある。

 また、以前私が東大生10人くらいと集まった時、勉強しなさいと言われて育ったかどうかを聞いてみた。すると私以外は全員「勉強しろ」と言われていないと答えた。そういう家庭では子供を子供扱いしないため、何でも自分で決めさせる習慣があるように感じる。私も一方的に教えるのではなく、子供が自分で決めて勉強するよう、自立を促す。

そうした指導に対して生徒の反応は?

 自立しなさいと言われて心から反発する子供はいない。自立したいのにできない、勉強しないといけないのに、やる気が出ないという子供ばかり。一緒に自立できるように頑張ろうとか、今はここまで頑張れとか、言い方を工夫しながら子供の自立を促している。

 また、世の中のニュースや日本の仕組みに興味がない子供はあまりいない。そういう子供に分かりやすく説明すると興味を持つ。子供が将来の目標を持てない、やりたい仕事が見つからない原因の一つは、世の中を知らないから。知らないことには興味を持てない。

 授業中はテストの点数のためだけでなく、将来どういう仕事をしたいかなど、自分の目標を決めるためにいろいろ話している。だから「国を守りたい」と思うようになるには、日本のことを知らなければいけない。

わが国の教育で問題と感じることは?

 日本史のテストを記述式にしてはどうだろうか。例えば「なぜ聖徳太子は十七条憲法を作ったのでしょう」とか、「なぜ徳川家康は幕府を作ったのか」とか。5W1Hを書かせる記述式の方が、必然的に頭は回る。今は暗記したら勝つような知識量の勝負のみだ。それだけではなく、記述式の問題をたくさん出題するようになれば、子供たちはもっと考えて勉強するようになり、少しは良くなると思う。

 ほかには理系科目に注目している。理系は世界共通で、例えば2+3は世界中どこでも答えは5。だから理系科目のレベルが高いということは、それだけ教育水準が高いということ。そのため数学を楽しく勉強してもらえるよう、吉本のお笑い芸人さんたちと一緒にイベントなどの活動もしている。

理想の受験生の生活とはどのようなものか。

 まず朝起きたら体を動かす。体の柔らかさは頭や気持ちの柔らかさにつながる。ストレス解消にもなって良い。友人との会話も、そればかりではダメだがストレス解消に良い。話すことで勉強した内容を整理できる。勉強は情報のインプットだけでなく、インプットした上で整理をしないといけない。

 また、寝る前に一日の反省をする。その時に「自分に100点を出すな」と言っている。満足するな、必ず工夫しろということ。だから私のアドバイスに対してもダメ出しするくらいになってほしい。

子供の理想の人間像は?

 私はそういうことを求めないようにしている。世の中のことを知った上で、自分がどう生きていくかを考え、ベストの選択をする。人に言われてそれに応じるのではなく、自分で正解にたどり着く人間になってほしい。

 そのためのレベルが3段階ある。「正解を聞く」「正解を探す」「正解になる」というもの。自分で考えず、すぐに答えを知りたがるのは「正解を聞く」の段階。次にどうやったら正解にたどり着くかを自分で考えることが「正解を探す」の段階。最後の「自分が正解になる」は、自分のやり方を正解にすること。例えば勉強方法で、書いて覚えるほうが良いか、見て覚えるほうが良いかとよく聞かれるが、それはやってみて合格すればそれが正解。自分に合った方法を見つけて結果を出せばいい。世の中は正解のないことばかりなので、自分で結果を出して正解になるしかない。

家庭教師としても、そのことを意識しているのか。

 受験業界の傾向として、東大に行きたい子供は家庭教師や個別指導ではなく有名塾に行くのが一般的。そこで、私が東大に受かる子供を多く出し、競争原理を働かせて、業界の活性化をしたい。その結果を出すにはあとどのくらいになるか分からない。だからここでも自分が正解になろうとしている。

 理想の人間像を求めないと言ったが、自分のためだけでなく、誰かのため、世の中のために頑張ろうと思える優しい心を持った人間が増えてくれれば、日本は必ず良くなる。