多彩で個性的な子供の「心の自画像」

金沢ふるさと偉人館「名前一文字展」

 金沢市の金沢ふるさと偉人館で、恒例の「名前一文字展」が開かれている。3歳児から小学6年生までの子供たちが、自分の名前の中から大好きな一文字を選んで毛筆や絵筆で自由に描いた作品展だ。同展の生みの親・松田章一元館長は「作品は子供たち一人ひとりの『心の自画像』です」と話している。(日下一彦)

色使いや形も感性豊かで生き生き

多彩で個性的な子供の「心の自画像」

毛筆や絵筆などで思い思いに描かれた、子供たちの「心の自画像」が並んでいる=金沢市の金沢ふるさと偉人館

多彩で個性的な子供の「心の自画像」

展示作品を鑑賞する子供たち

 「名前一文字展」は平成18年に始まり、今年で12回を数える。今では同館の恒例行事として定着し、5000点余りの応募があった。作品は市内に住む保育園児や幼稚園児、小学校の児童たちが自分の名前の中から一文字を選び、毛筆または絵筆を使って「半紙」や「美濃判」に、墨か水彩絵の具のどちらかで描く。一文字は漢字でもひらがなでもよい。

 作品を一点一点見ていくと、子供たちの感性の豊かさに驚かされる。オーソドックスな毛筆もあれば、絵筆を使って鮮やかな色彩で描いた作品もある。小学校高学年ともなると楷書体(かいしょたい)では飽き足りず、文字をわざとかすれさせて描いて味わいを出してみたり、躍るような変形文字を紙面いっぱいに描いたりと、実に多彩で個性的だ。

 中には象形文字風に描いたり、偏(へん)と旁(つくり)のバランスに変化を付けたりと、遊び心たっぷりにデザイン的にも趣向を凝らした表現もあって、自由闊達(かったつ)な感性に思わず微(ほほ)笑んでしまう。

 水彩絵の具を使った作品になると、まるで花が咲いたよう。赤や黄色、緑、紫色など思い思いの色で半紙いっぱいに表現したり、逆に小さく書いて余白を存分に見せたりと、文字構成はさまざまだ。中には勢い余って紙からはみ出したりと、自由な感性の赴くままに描いた作品も展示されている。

 「小学校の書道や習字教室では、先生の書法があって、それに倣って書いた字が良い字とされます。ところが、この名前一文字展には手本がありません。自分で考えて書かなければならないし、先生も手本を書いてあげるわけにはいきません。そういう意味では、自分を表現する上でとても良いなぁと思いました。それぞれの作品は、ちょうど画家が自画像を描くように、子供たちの『心の自画像』だと思っています」と松田さん。さらに「名前は生涯付き合っていく文字です。名前ならそこに込められた父母や祖父母の願いがありますし、苗字だったら家の歴史を考えるきっかけになるのではないでしょうか」とも。

 どうして一文字なのか疑問を持ってしまうが、文字が多くなると紙に収まり切れなくなり、二文字だと字のバランスに気を使う。それよりも、子供たちが自由に思いっ切り書いてほしいとの思いを込めてのことだそうだ。

 応募作品の中から約5%の優秀作品を書道家やイラスト作家ら4人の審査員が選んでいる。上手下手に関係なく、デザイン性や子供らしさを含め、優劣を競うのではなく、「良く出来ました」というハンコだそうだ。

 松田さんは「小学生に比べ保育園児や幼稚園児の方が、全身を使って伸び伸びと描き、子供らしい作品が多く、感心させられます」という。「小学生になってだんだん物心が付いてくると、自分を良く見せようとして相手を意識するでしょう。ところが幼児にはそれが無く、力強さがあるんです。無鉄砲ですが、何のためらいもなく、上手下手もありません。あっという間に書き上げ、一枚書けばもうおしまいです。ですから、そこに自分が出ています。それが本当だろうと思いますね。そういう姿を見ていると、教育は子供たちの秘めた力を、どこかで削(そ)いでいるのかなと感じたりもします」と、長年の教師生活を振り返りながら、思いの丈をこう語った。

 前期展示の「年長、小学2・4・6年生の作品」は今月26日に終了したが、後期展示の「年中以下、小学1・3・5年生の作品」が3月11日(土)~4月2日(日)まで行われる。問い合わせ=076(220)2474