「命のビザ」の外交官・杉原千畝の博愛精神を受け継ぐ
出身地の岐阜県八百津町八百津小学校の子供たち
岐阜県八百津町にある八百津(やおつ)小学校では、同町出身で、「命のビザ」で知られる外交官・杉原千畝(1900~86年)氏を題材にした人権創作劇を上演してきた。今年、杉原氏直筆のビザなどがユネスコの世界記憶遺産に登録される見込みとなり、新たな創作劇を上演することになった。現在、6年生が今月末の本番に向けて、けいこに励んでいる。劇を通して、子供たちが杉原氏の博愛精神をどのように伝えてくれるか、期待がふくらんでいる。(日下一彦)
人権創作劇「メノラの灯」をバージョンアップして上演
八百津小学校では、子供たちが杉原千畝氏の功績や生き方、命の大切さや平和の尊さを学び、氏の精神を自信と誇りを持って県内外に発信できることを目指している。高学年の総合的な学習の時間では、杉原氏の学習を中心に位置付け、同町にある杉原千畝記念館を訪問したり、資料を調べたりしながら、氏の思いや願いを主体的に学んできた。
同校で人権創作劇が上演されるようになったのは、平成18年度で、文部科学省指定の「人権教育」の研究校となり、それを契機にそれまでの調べ学習を発展させ、学習の成果を劇と歌で発表しようと、人権創作劇「メノラの灯」の上演が始まった。「メノラ」とは、ユダヤ教の典礼具の一つで、七枝の燭台を指している。
劇では、杉原氏に命を救われたユダヤ人の子孫と同町の児童が町を見下ろす「人道の丘公園」で出会い、杉原氏の勇気ある決断を学び、平和を誓い合う物語となっている。平成21年度には、長良川国際会議場で開催された「人権フェスティバル全国大会」で上演したり、福井県敦賀市にある「人道の港敦賀ムゼウム」で劇の取組について発表するなど、対外的な活動も積極的に行ってきた。
劇づくりについて、同校の松岡裕二教頭は、「ビザを求めるユダヤの人はどんな気持ちだろう、千畝さんが決断した場面はどんな思いだったのか、など登場人物の気持ちを考えさせてきました」と振り返り、「台詞の言い回しや演技を、みんなで考えることを大切にしてきました」と話している。
昨年11月25日には、杉原氏が卒業した名古屋市立平和小学校の3年生と6年生との交流会が開かれ、上演を観た同校の児童から「今まで千畝さんのことは本を読んで知っていましたが、実際に千畝さんがビザの発給を決断する場面を見て、とても感動しました」との感想が発表された。このように、人権創作劇は八百津小学校の“新しい伝統”になりつつある。
この日の上演を一つの区切りとして、同校では、さらに新しい人道創作劇に取り組むことになった。それは昨年、「命のビザ」を含む関連史料「杉原リスト」がユネスコの世界記憶遺産の国内候補に選ばれ、今年、同諮問委員会の審査を経て登録される見込みが高いからだ。
新しい劇は先の「メノラの灯」を踏まえながら、内容がさらにバージョンアップしている。1940年のリトアニアにタイムスリップした同校の子供たちとユダヤ人の子供たちが、お互いの交流を通じて杉原氏の功績を紹介するもので、6年生32人が初舞台に向かって、12月から台本の読み合わせなど練習に取り組んでいる。6年生の男子は、「世界記憶遺産の国内候補になったので、さらに千畝さんのことを学んで、命の大切さや人権について考え、いい劇にしていきたい」と抱負を語っている。
杉原氏は第2次世界大戦中、ナチスドイツの迫害から逃れようと、ポーランドからリトアニアに脱出してきたユダヤ人に、外務省の反対を押し切り、独断で日本への通過ビザを発給した。1カ月で2139通のビザを手書きし、約6000人の命を救ったとされる。自らの危険を顧みることなく行った人道的行為は、多くの人に感銘を与えている。後にイスラエル政府から「イスラエル建国の恩人」として表彰され、リトアニアのカウナス市内には「スギハラ通り」が出来ている。
新しい劇は今月31日(火)、ぎふ清流文化プラザ(岐阜市)で行われる「ふるさと教育フェスタ2016」で、初めて上演される。