安倍外交に注目する欧州メディア
願われる積極的情報発信
日本は米中両国に次ぐ世界第3の経済大国であり、欧州でも日本の経済活動や政府の経済政策については報じられてきたが、日本の外交政策が欧州国民の目に留まる機会はこれまで少なかった。ところが安倍晋三首相の真珠湾訪問をオーストリアの代表紙プレッセが1面トップで報じた。安倍外交に注目する欧州メディアの現状とその課題をプレッセ紙の報道内容から検証する。
(ウィーン・小川 敏)
オーストリア紙から見る現状と課題
慰安婦問題では韓国寄り報道も
画一的な日本批判に終始
プレッセは昨年12月28日、1面トップで安倍晋三首相の真珠湾訪問を報じた。同首相がハワイで旧日本軍の真珠湾攻撃による犠牲者に黙祷をささげる写真が掲載された。プレッセの1面トップを日本の首相が飾ることはこれまでなかったことだ。
オバマ大統領は昨年5月27日、安倍首相の招きで米大統領として初めて被爆地広島の平和記念公園を訪問し、安倍首相とともに原爆資料館を見学した後、原爆死没者慰霊碑に献花した。プレッセはその時も国際面でかなり大きく報じた。
安倍首相は先月、ロシアのプーチン大統領を招き、北方領土返還問題から平和条約の締結問題まで話し合ったばかりだが、プレッセはその時も報じているといった具合だ。
安倍政権の看板経済政策アベノミクスが時たま報じられたことはあったが、日本の外交政策が欧州メディアで大きく報じられるということはこれまで少なかった。その意味で、日本の外交に対する欧州メディアの関心が高まってきたことは歓迎すべきだろう。
同時に、問題点も浮かび上がってきた。安倍外交の要の一つ、日韓関係について、欧州メディアの報道ははっきりいって韓国寄りの反日報道が多いことだ。
日韓両国は2015年12月28日、ソウル外務省で旧日本軍の「慰安婦問題」で岸田文雄外相と尹炳世(ユンビョンセ)韓国外相が会談し、慰安婦問題の解決で合意に達した。日韓両政府は、慰安婦問題について不可逆的に解決することを確認するとともに、互いに非難することを控えることで一致した。安倍首相が推し進める未来志向の外交の成果と評価された。
しかし、欧州では日韓両国関係では日本は侵略国家であり、韓国は被害国といったスタンスが支配的だ。韓国・釜山の日本総領事館前に昨年末、同国の“民間団体”が旧日本軍の慰安婦を象徴する少女像を設置したことを受け、日本政府が「日韓両国間の合意に反する」として長嶺安政・駐韓大使を一時帰国させる一方、日韓通貨交換(スワップ)協定の協議中断などの対抗措置を下したが、日本の対応を批判的に報道する姿勢が強いのだ。
プレッセは1月7日付5面の国際面で早速、「日韓間の新たな紛争」という見出しの短信を報じたが、その記事を読む限りでは、読者は今回の日韓対立の責任は日本側にあると受け取ってしまうだろう。
同紙は「第2次世界大戦中の日本軍の性奴隷問題について、ソウルと東京間で再び対立の火が燃えあがった。右派保守系日本政府は自国の大使を一時帰国させることを決定した。その理由は旧日本軍に強制的に売春婦にさせられた韓国慰安婦を表示する少女像が韓国内で設置されたからだ」と報じている。
記事は、旧日本軍が韓国で慰安婦を集め、性犯罪を繰り返したことを強く想起させる一方、韓国側の日韓合意内容の不履行については全く言及していない。プレッセの記事では、今回の日韓対立の主従関係が全く逆転しているのだ。「性奴隷」や「強制的」という言葉が読者をミスリードしている。
日韓間の新たな対立の主因は、慰安婦問題に関する日韓両国間の合意内容を履行しない韓国側にあるのは明らかだ。プレッセは日韓合意後の事実を全く無視し、画一的な日本批判の記事に終始している。
在オーストリア日本大使館の外交官もオーストリアのメディア関係者を招いて、慰安婦問題の最新情報についてブリーフィングすべきだ。第2次世界大戦の敗戦国でもあるオーストリアのメディア関係者には、同じ敗戦国の日本に対してどうしても批判的な観点で報じる傾向があるからだ。安倍外交を支えるべき海外公館の日本外交官の積極的な情報活動が願われる。