家庭教育の専門家が一堂に会して熱い討議
日本家庭教育学会のシンポジウム
グローバル人材育成に向けて、政府は英語教育に力を入れている。一方、国際調査では日本の若者の自己肯定感や意欲の低さが指摘されている。8月、日本家庭教育学会(中田雅敏会長)大会では、世界で戦えるグローバル人材をどう育成するか、家庭教育の専門家が一堂に会し、熱い討議が行われた。(横田 翠)
グローバル人材をどう育てるか
日本家庭教育学会は発足三十年余、家庭・家族、家庭教育のあり方を理論と実践の両面から、研究し討議を重ねてきた。毎年、夏の大会では、大学の研究者のほか、ボランティアや家庭教育師らが参加し、実践的な研究報告が行われる。
今年は、東京都文京区の貞静学園短期大学を会場に12の研究発表が行われた。その一つ、公益法人スコーレ家庭教育振興協会のカウンセラー中西祐子さんの発表会では、共働き世帯が増え、幼児期に母親が十分な愛情を注げず心の栄養不足になっている事例や父親母親の役割が不明瞭で機能不全の家庭の事例など、家庭教育の空洞化が子供の育ちを損ねている核家族の実情が報告された。
午後は「グローバル時代の家庭教育」と題して、グローバル教育研究所の渥美育子氏による講演およびパネル討議が行われた。氏は米国を舞台に世界のトップ企業を顧客に、グローバル教育による人材育成事業を手掛け、平成19年に帰国後は日本を拠点にグローバル人材育成を進めている。
グローバルとインターナショナルの違い、グローバリズムとグローバリストの違いなど、概念付けに始まり、異文化理解、日本が直面する安全保障上の危機、世界を見る視点など、広範囲に及んだ。
講演では、冷戦後、世界の仕組みが大きく変化し、21世紀は意識のグローバル化を迎えたが、日本はこの変化に対応できていないと指摘。まず親が世界全体としっかり向き合い、世界で何が起こっているか、事実をきちんと子供に教えることが大切と、グローバル時代の親の姿勢について理論と実践の両面から熱く語った。
渥美氏が考案した「文化の世界地図」を使いながら、文化の枠組みを理解し世界全体が見えるようになると、自分に何が足りないかが分かり、自主的な学びと成長につながると、実践的アドバイス。
パネル討議では、グローバル人材の定義を巡って、議論が白熱した。グローバル人材に必要な要素は、まず語学力・コミュニケーション能力、さらに主体性、チャレンジ精神、協調性、責任感、使命感など、総合的な生きる力が求められる。
渥美氏が考えるグローバル人材とは、日本という国とその固有の価値を一つの重要な軸としつつ、世界全体としっかりつながる軸を持った、バランスある強固な価値観を持つ人材である。「自分が属する国の価値観、アイデンティティーをしっかり持つことが大事で、一定期間、違う文化圏で生活することで世界的視点で見れるようになる」と語った。
またソプラノ歌手でもあるスコーレ家庭教育振興協会の鈴木緑氏は、世界を舞台に活躍する3人の娘の子育て体験から、「幼少期は母親が笑顔で十分な愛情を注ぎながら、人間としての基本を育てることが大切。子供が親離れをしたら、親の価値観で縛らないことが大事」と家庭教育の基本を語った。
一方、グローバル人材育成が本当に子供のためになるのか、海外体験はグローバル人材に必要な要素なのかといった、今日の英語教育偏重の人材育成への疑問の声も挙がった。
筑波大学の明石純一准教授は、「グローバル発想をできる子をどう育てるか。押しつけではなく子供が主体的に世界を学ぶようにすることが大事」とし、渥美氏は「英語はコミュニケーションの手段。世界で何が起こっているか、対話を通して教えるのは親の仕事。親が世界の動きに関心を持つところから、世界のことを子供が自由に学ぶようになる」と、親の意識変革を促した。
英語は学校教育で学べても、グローバルマインドは家庭で育まれる。親が世界とどう向き合っているか、その姿勢が問われている。







