来年度から使用の高校家庭科、「LGBT」初めて登場
伝統的家族観の否定度強める
今年春に検定結果が公表された新しい高校教科書は、来年度から使用される。その採択作業が8月までの決定に向け進む。領土教育の充実を求めた国の指針を受け、尖閣諸島や竹島などに関する記述量が増えて、近代史に関わる内容では偏向是正がみられるが、対照的なのは家庭科。初めて「LGBT」という言葉が登場するなど、伝統的な家族観を否定的に扱うなど偏向度を強めている。(森田清策)
性の「多様化」と「自己決定」強調
来年度から高校で使われる新しい家庭科教科書の特徴は、性や家族について「多様化」を強調する記述がさらに増えたことだ。複数の教科書がLGBTを初めて取り上げたのはその象徴だ。
開隆堂出版の「家庭総合」は、「自分らしい性といった場合、実際には、『身体の性』の他、自分の性をどのように認識しているかという『性自認』、自分自身の性をどのように見せたいかという『性表現』、どういう性別の人を好きかという『性指向』の組み合わせによって性は捉えることができる」として、「多様な性」を強調。その上で、次のようにLGBTを解説した。
「セクシャル・マイノリティは性的少数者と訳される。一般的に、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー(略してLGBT)、性分化疾患(しっかん)(インターセックス)などといった人びとを指す。『マイノリティ』といった場合、単に人数が少ないというだけでなく、差別や構造の問題によって、社会的に弱い立場にある人をいう」
この記述に続いて、「日本では同性同士の婚姻は法的に認められていないが、LGBTであることを公表した上で、『結婚式』を挙げる人たちも現れてきている。2015年には、東京都渋谷区で同性パートナーシップ条例が成立した」としながら、その横に女性同士で「結婚式」を挙げたタレントのカップルの写真を載せた。
同出版の「家庭基礎」も「セクシャル・マイノリティ」という見出しで、上記と同じ内容と写真を載せている。
東京書籍の「家庭基礎」は「ひとくちメモ」として欄外でLGBTを取り上げた。「性愛の対象が同性や性自認が身体の性と異なるなど、性的に少数の立場にある当事者の総称」と説明。さらに、「少数派は、多数派に合わせた社会の中で困難や生きにくさを感じやすい」と記述した。
一方、開隆堂出版の「家庭総合」は、「現代の家族の特徴」の章で「現代では、事実婚、同性婚、ひとり親家族、ステップファミリー、ディンクス(DINKS)やデュークス(DEWKS)など、さまざまな家族の形態があるが、多様な家族への社会的な対応は、まだ十分ではない」などと、同性婚にも触れながら結婚の多様化を進めない社会は遅れているように印象づける説明もある。
伝統的な家族を大切にする価値観を否定的にみる傾向は、「性」を人権や個人の権利の観点から偏って捉えて、「多様化」と「自己決定権」を強調する記述につながっている。
実教出版の「新家庭基礎21」は「性を人権としてとらえることは、世界の先進的潮流となっている」とした。その上で、「日本においてはまだ『恥』や『卑猥(ひわい)』などと否定し抑制しようとする考えも根強く、この課題を肯定的にとらえ教えることができない大きな要因となっている」と、恥の感覚を社会の後進性の表れであるかのように書いた。
そして、1999年8月、第14回世界性科学総会(香港)で採択された「性の権利宣言」を紹介し、性について11項目の権利があることを説明する。この宣言は、「性の喜びの権利」を含んでおり、教科書が性の解放思想の影響を強く受けていることを示すものと言える。
教育図書「家庭基礎」も欄外に「性的自立」の項目をつくり、「セクシャル・マイノリティを含む、すべての人の性を同様に尊重する人権意識も必要である」とした。
こうしたリベラル・左派に偏向した価値観を背景に編集されている教科書となれば、男らしさ、女らしさやを否定的に記述するのは当然だろう。実教出版の「新家庭基礎21」は「個人の多様さを認めず、『男らしさ、女らしさ』という性別役割を強制するような社会では、個々の性行動や結婚、さらに生む・生まないという選択の権利が保障されず、自己決定が行いにくい」と断定する。
大修館書店の「新家庭基礎」も、「自立」に関して「たとえば、『男は仕事、女は家庭』といった固定的な性別役割分業意識にとらわれず、自分らしさや個性を尊重し、一人ひとりの資質を伸ばしていくこと」と記述した。