「漆芸の未来を拓く-生新の時2016-」開催

学生たちの意欲溢れる作品展を石川県輪島漆芸美術館で

 石川県輪島市の県輪島漆芸美術館では、大学や大学院で漆工芸を学び、今春卒業および修了した学生たちの漆芸作品を展示した「漆芸の未来を拓(ひら)く―生新(せいしん)の時2016―」が開かれている。今年で9回を数える恒例の展覧会で、地元の金沢美術工芸大、金沢学院大、富山大はじめ、東京藝術大、京都市立芸術大、東北芸術工科大、広島市立大に加え、今回から沖縄県立芸術大が出品し、計41点の意欲作が並んでいる。(日下一彦)

石川県輪島市で、出品者のトークイベントも

「漆芸の未来を拓く-生新の時2016-」開催

キリスト教会のステンドグラスを連想させる「旧約聖窓」=石川県輪島市の県輪島漆芸美術館

 近年、漆器産業全体が厳しさに直面しているが、4年制の大学で漆工芸を学ぶ学生は、増える傾向にある。参加大学の中で、東京藝大と京都市立芸大は120年を越える歴史がある。特に東京藝大美術学部工芸科の漆芸研究室は1887(明治20)年に開設され、漆芸家の室瀬和美氏(人間国宝)ら国内外に多くの作家や研究者を輩出している。

 その一方で、今回初参加の沖縄県立芸大では4年前、美術工芸学部デザイン工芸学科工芸専攻に漆芸分野が開設され、今春、初の卒業生5人を送り出した。同展覧会にはその中から2人が、装飾技法の一つ螺鈿(らでん)と呂色(ろいろ)を駆使した器と箱を出品している。沖縄は伝統的な琉球漆芸の産地でもあり、作品はその一端を伝えている。

 佐賀大や宇都宮大、秋田公立美術大でも漆芸を学ぶ学生が出てきており、彼らにとって漆は、創造性や芸術性をかき立てる魅力的な素材の一つとなっているようだ。

 学生たちが漆芸を始めるのは、ほとんど大学入学後だ。大学によって多少の違いはあるが、1年次には漆芸に限らず、陶芸、木工など工芸全般の基礎を学び、2年次より各専攻に分かれて装飾技法など専門技術を修得しながら、4年次にその集大成として卒業制作に取り組み、作品を完成させている。

 同展覧会は参加大学の協力のもと、美術館が主催している。個々の大学が行っている卒業、修了作品展とは一線を画すもので、複数の大学の作品が一堂に寄せられることで、作品の質が高められる。

 また、会期中に出品者が自作品を解説するギャラリートークも企画され、若い作者と在学生の集う交流の場となっている。さらに、漆の里・輪島を訪れることで、産地の現場との交流も生まれている。

 「個性豊かでみずみずしい若い世代の感性が、漆芸の世界に新風を吹き込んでいる」と、毎年評判だが、今回もそれがさらに高まりそうだ。出品作の中から、幾つか紹介すると――。

 京都市立芸術大の内海紗英子さんの「旧約聖窓(きゅうやくせいそう)」(径110㌢、厚1・2㌢)は、主に螺鈿技法で描いた作品。キリスト教会のステンドグラスに似せ、ノアの箱舟やモーセの物語など旧約聖書の12の場面が円形に配置されている。

 窓の中の世界は緻密にデザインされた紋章のようで、荘厳な装飾と貝の輝きに魅せられてしまう。「漆芸美術館だより」最新号の表紙を飾っている。

 在学中に海外の漆文化を学ぶ学生も出てきている。富山大の畦地拓海さんはタイの漆芸技法を学び、出品作「縁(えにし)」(高140㌢・幅140㌢・奥行140㌢)に取り込んだ。

 留学中にタイ人の温かさに触れ、人と人との繋(つな)がりをテーマに、乾漆(かんしつ)で胎を制作し、タイの箔絵技法で加飾している。無限に広がりながらめぐる縁を思わせる。

 各作品には制作の意図が分かるよう解説文が付いており、鑑賞を手引きしている。東北芸術工科大の齊藤裕希さんの「胡蝶(こちょう)の夢」(高167㌢、幅43㌢、奥行34㌢)は、中国の荘子の胡蝶の夢から着想を得た華麗なドレス。金唐革(きんからかわ)の技法を駆使して牛革に刻印し、シャクヤクと月桂樹をパターンにして描き、華やかな印象になるよう工夫されている。

 このほか、伝統的な乾漆技法による蒔絵(まきえ)箱や朱漆の椀、器、螺鈿の飾箱などにも若い感性があふれ、来館者を魅了している。

 会期は6月27日(月)まで(会期中無休)。期間中、6月11日(土)には出品者によるギャラリートークが開かれ、その後、恒例のシンポジウムが行われる。今回のテーマは「『漆芸の未来を拓く―生新の時―』展をふりかえる」で、東北芸術工科大学の小林伸好教授をコーディネーターに、同展の歩みとその役割について考える。当日は入館無料。また、6月4日(土)・5日(日)の「輪島市民まつり2016」でも無料開放される。