潘基文国連総長が注目の的

韓国大統領選に出馬の意向か

 潘基文国連事務総長(71)が来年12月の韓国大統領選挙に出馬する意向を固めたのではないかとする見方が広がっている。4月の総選挙で惨敗した与党セヌリ党による擁立が取り沙汰されており、野党は警戒ムードだ。
(西帰浦=韓国済州島・上田勇実、写真も)

総選挙惨敗の与党、擁立に意欲

支持率断トツ? 浮足立つ野党

 先週、韓国南部の済州島を訪問した潘氏は行く先々で報道陣にもみくちゃにされた。総選挙で惨敗した与党の大統領候補支持率が低迷・低下し始めていた矢先の一時帰国。来年の大統領選出馬に関するコメントを取ろうと取材に殺到したのだ。

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26日、済州島で行われた国際フォーラムの開会式であいさつする潘基文国連事務総長

 「来年1月1日、韓国市民としてどういう仕事をすべきか悩み、決心したい」

 中堅記者による討論会「寛勲クラブ」に出席した潘氏はこう述べた。韓国メディアは今年末で国連事務総長の任期が満了となる潘氏がついに韓国大統領選出馬を「示唆」したと一斉に報道。金大中元大統領の最側近だった野党・国民の党の朴智元院内代表(国対委員長に相当)は「外交官が使う用語としてこれよりも強い『出馬する』という用語がどこにあるのか」と指摘、出馬を既成事実化したほどだ。

 潘氏は「大統領に出馬するには高齢すぎないか」という質問にも「1948年の李承晩大統領の時代と比べると、今の国民の体力や自然寿命は15~20年の差が生じたと思う。米国大統領候補たちも70代がいる。(事務総長任期)10年間にマラソンを100㍍走をするごとく走った。滋養強壮剤を飲んでいるわけでもなく、体力には何ら問題ない」と自信のほどをのぞかせた。

 与党は幹部の鄭鎮碩院内代表らが済州島に駆け付け、事実上のラブコールを送った。鄭代表が潘氏の耳元で何やらヒソヒソ話をする場面も見られた。

 現在、大統領候補の支持率は潘氏を除いた場合、野党系が優勢だが、そこに潘氏が入ると断トツで支持率トップに躍り出るという世論調査結果も出ている。与党としては残り1年半となった大統領選に向け、有力候補擁立にメドをつけたいところだ。

 一方の野党陣営は「険しい韓国政治に飛び入ってうまく乗り切れるか分からない」などと警戒気味だ。候補の一人に数えられる朴元淳ソウル市長は事務総長退任後に世界各国の機密を漏洩(ろうえい)してはならないとする国連決議文を理由に「潘氏が特定国家の公職者(韓国大統領)になって他国の機密を活用する可能性があり、国連決議文の精神が守られることが望ましい」と牽制(けんせい)した。

 討論会の翌日、潘氏は自身の発言が大きな反響を呼んだことを憂慮したかのように、大統領選出馬は「拡大解釈」と述べたが、潘氏を担ぎ出そうという雰囲気に変わりはない。

 国際社会では国連事務総長としての潘氏の実績やリーダーシップに厳しい批判も少なくない。しかし、韓国では立志伝中の人物という評価が一般的だ。「既存の政治家にはないクリーンなところが強み」(任洪宰・元駐ベトナム韓国大使)とされるほか、保守の地盤である嶺南地方(南東部の慶尚道)と革新の地盤である湖南地方(南西部の全羅道)の地域感情対立が激しいこの国にあって、潘氏は昔からキャスチングボートを握ってきた中部の忠清道出身である点も好感を抱かせているようだ。

 潘氏は今回の訪韓期間中、忠清道の政界元老である金鍾泌元首相を訪問し、「来年になったらまたあいさつしに来る」と意味深な言葉を残したという。

 外交官一筋で調整型。盧武鉉政権で務めた外交相時代、外国報道機関の記者を交えた定例ブリーフィングの場では、当時、ぎくしゃくしていた日韓関係などをめぐる突っ込んだ質問にも、のらりくらりとかわしていた。それがかえって「決断の政治力が求められる大統領」(韓国紙)としての潘氏の資質に疑問を呈することにもつながっている。

 潘氏は過去、反日的な発言をしたことで日本ではあまりいい印象を持たれていない。国連トップとして政治的中立を守るべき潘氏が、関係がぎくしゃくしている2国のうち一方の国を批判するという“職務遺棄”を堂々とやってのけたためだった。

 潘氏の対日観は必ずしも検証されたものではなく、仮に大統領となった場合、日本としてはしばらく様子見となるかもしれない。

 対北朝鮮政策では訪問先の済州島で「南北間の対話チャンネルを維持してきたのは唯一私だけではないか。チャンスがあれば引き続き努力する」と述べるなど相変わらずの対話主義。まともな外交や交渉が通じない北朝鮮相手に不安を残している。