議長国の利生かし演出

伊勢志摩サミット検証(下)

外交実績携え参院選へ

 伊勢神宮内宮の宇治橋で首脳を迎えてスタートした主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)は広島の原爆ドームに向かう安倍晋三首相とバラク・オバマ米大統領の後ろ姿で終わった。会場となった賢島のホテルでは拡大会議を含み七つのセッションが行われたものの、その中身よりも、こちらの方が印象が強いのは、今回のサミットが「安倍晋三の政治ショー」として演出されたからだといっても過言ではない。

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原爆慰霊碑に献花した後、黙祷(もくとう)をささげるオバマ米大統領(写真左)と安倍晋三首相=27日午後、広島市の平和記念公園]

 首相は最後の会見で、「あらゆる政策を動員してアベノミクスのエンジンを吹かしていく」と改めて強調した。「リーマン・ショックに似ている」状況に首脳間で「強い危機感を共有」したことを受けてのことだ。これで、議論となっている消費税率引き上げの再延期について国際的“お墨付き”を得たことにしたいという思惑がにじむ。

 一方、オバマ氏を広島に招くことができたのは首相にとって大きな外交実績となった。日本と米国はかつて干戈(かんか)を交えた仇敵(きゅうてき)である。そして米国は人類歴史で初めて唯一原子爆弾を人に対して使った国であり、日本は唯一の被爆国である。

 議論はあったものの、オバマ氏はヒロシマを訪問し、原爆の悲惨さを伝える資料館を見て回り、被爆者とも手を握り、包容して言葉を交わした。その姿と語られたメッセージは世界中に配信され、「米大統領のヒロシマ訪問」は歴史的事件となった。互いを責めず、戦争と原爆の悲劇に目を向け、赦(ゆる)し和解する姿は国際社会に特別なメッセージを伝えてもいる。これを成し遂げた安倍首相も歴史の一ページに名を遺(のこ)すことになる。

 首脳らを見送り28日夜、官邸に戻った首相は早速、麻生太郎財務相、谷垣禎一自民党幹事長を呼んだ。「税率引き上げの延期を話し合ったのでは」と観測されており、これで一気に政局は週明けから税率引き上げ延期決定と参院選に転じることになろう。

 衆議院も解散して同日選とする説も相変わらず燻(くすぶ)っている。ある改選期に当たっている与党参院議員は、「正直なところ衆参ダブル選が望ましい」と本音を吐露する。首相は「解散」の「か」の字も口にしていないことから、野党だけでなく与党でも真意を読みかねており、この状況はむしろ「首相がフリーハンドを握った」状況といっていい。

 税率引き上げ再延期、オバマ広島訪問という実績を携えて、ダブル選に打って出るのかどうか。安倍首相の課題を一つ一つクリアしていくと、あとは憲法改正の発議に必要な両院での「3分の2」確保が残ることになる。そのために首相が打つ次の一手は何かに関心が集まる。

 サミットを巧みに利用し政局を有利に運ぶ。議長国として当然の“役得”だが、今回はそればかりが印象に残るものとなった。

(編集委員・岩崎 哲)