サミットに安倍外交結実 米の最も重要な同盟国に

関係深化で広島訪問

 5月27日、現職米国大統領として初めて、オバマ大統領は被爆地・広島を訪問した。所感を述べた後、大統領は被爆者代表の2人の元へ歩み寄り、握手をしながら耳を傾け言葉を交わした。それはかつて干戈(かんか)を交えた日米両国の和解と同盟関係の深化を象徴するかのような感動的な一幕であった。

 2日間にわたって行われた伊勢志摩サミットは、この米大統領の歴史的な被爆地訪問という見せ場を大団円(だいだんえん)として閉幕し、賑々(にぎにぎ)しいサミット関連の報道も一段落となった。

 それとは対照的に翌日の28日、安倍首相が何をしていたかは大きなニュースとして取り上げられなかったので、大方の国民の関心事とはならなかったが、首相は一日中、首脳会談を行っていたのだ。

 新聞紙が記す「安倍首相の1日」によると、午前中にチャドの大統領、バングラデシュの首相、スリランカの大統領、インドネシアの大統領と会談。そして午後はパプアニューギニアの首相、ラオスの首相、ベトナムの首相ら、サミットの拡大会合に出席した各国首脳と個別に会談を行ったのである。

 これらの国はアフリカ連合議長国、太平洋諸島フォーラム議長国、ASEAN議長国など、いずれも我が国にとって戦略的利害を共有する重要なパートナーである。

 それぞれの会談では、「自由、民主主義や法の支配等の普遍的価値の重要性を確認」「日本の積極的平和主義に基づく取り組みを支持」「海洋国家として公海の自由、及び法の支配に基づく海洋秩序維持の重要性を再確認」などで一致した。

 G7首脳宣言に東シナ海、南シナ海の状況を懸念し、「すべての国に埋め立て、拠点構築及び軍事目的での利用を自制し、航行、上空飛行の自由の原則を含む国際法に従って行動するよう要求する」(海洋安全保障に関するG7外相声明)を支持すると明記したことに加えて大きな成果となった。名指しはせずとも暴戻(ぼうれい)な中国を対象としたものであることは明らかであろう。

 安倍政権の外交・安全保障政策は平成25年12月17日に、我が国で初めて策定された「国家安全保障戦略」に基づいている。これは昭和32年策定以来、半ば空文化した「国防の基本方針」を改めたもので、我が国の国家安全保障に関する基本方針を定める最上位の文書に当たるものである。

 日米同盟を国家安全保障の基軸とし、国際政治経済の主要プレーヤーとして、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、我が国の安全及びアジア太平洋地域の平和と安定を実現しつつ、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保にこれまで以上に積極的に寄与していく。これこそが国家安全保障の基本理念であるとしているのだ。

 そのため安倍首相は対米関係を強化し、日米同盟の信頼性を向上させるために、新「日米防衛協力のための指針」の合意と、安保関連法を成立させたのである。

 その結実はオバマ大統領が広島訪問の途次、岩国基地で米海兵隊員と海自隊員を前にして、「強固な日米同盟」を強調する演説を行い、米国にとって日本が最も重要な同盟国であることを表明したことにも示されている。

国滅ぼすトランプ氏

 折しも米大統領選の共和党指名が確定した不動産王トランプ氏の安保見直し発言が物議を醸しているが、日米同盟の本質というものを全く理解していない。先哲プラトンは「金儲け仕事をするのが本来である人物が思い上がって、その素質もないのに統治者となれば国を滅ぼす」と戒めている。今後、米国民の良識が問われることになる。