伊勢志摩サミット 外交安保、 「南シナ海」で対中結束なるか

伊勢志摩サミットの焦点(上)

 安倍晋三首相が議長を務める主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)が26、27の両日、三重県志摩市で開かれる。不透明な世界経済の先行きやテロ・難民問題、南シナ海の海洋安全保障などについて、普遍的な価値観を共有する先進7カ国(G7)がどこまで結束して対処できるか。また、最後のサミットとなるオバマ米大統領の広島訪問にも注目が集まる。サミットの焦点を探ってみた。

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昨年ドイツで開かれた7カ国首脳会議の夕食会に臨む各国首脳(AFP=時事)

 現在、ウクライナや南シナ海で「力による現状変更」を試みるロシアや中国、核実験とミサイル発射を繰り返す北朝鮮、世界にテロの恐怖を拡大する「イスラム国」(IS)をはじめとするイスラム過激派組織など、国際秩序に挑戦する国や組織が世界の平和と安定を脅かしている。

 南シナ海では、海洋進出を図る中国の一方的な行動がエスカレートしている。米国防総省が13日に公表した中国の軍事動向に関する年次報告書によると、中国が昨年末までの2年間にスプラトリー(南沙)諸島で約13平方㌔を埋め立て、1年前と比べても6倍以上も拡大した。17日には、南シナ海で中国軍機が米軍機に約15㍍まで異常接近する事態も発生した。

こうした振る舞いを続ける中国に対抗するため、首相はG7や拡大会合に参加するASEAN諸国との結束を示し、対中包囲網の強化を目指している。

中国は、南シナ海のほぼ全域に自国の管轄権が及ぶと一方的に主張。領有権を争うフィリピン政府は、国連海洋法条約に基づく仲裁手続きを申し立てている。その判断が近く下される見通しだが、中国側は「どんな結果であろうと受け入れない」と強硬姿勢を貫く。

 4月の広島外相会合では、昨年に続き海洋安全保障に関する声明を発表。その中で、中国を念頭に「裁判所によって下されたあらゆる決定の履行」を求めるとの文言も盛り込まれた。

 だが、中国と経済的な結び付きが強い欧州諸国には、極力中国を刺激したくないとの思惑もあり、日米との温度差がある。サミットでは、安倍首相がリーダーシップを発揮し、より結束した強いメッセージを発信したいところだ。

イスラム過激派によるテロへの対策も主要な議題の一つだ。英国の「経済平和研究所」によると、14年のテロによる死者数は3万2685人で、13年の1・8倍と最大の増加率を記録。先の欧州訪問で、首相はオランド仏大統領と会談し、サミットで「テロ対策行動計画」を策定する方針を説明。ベルギーでのミシェル首相との会談では、テロ対策に関する2国間協議の年内開始で一致した。

欧米メディアによると、今年3月のベルギー同時テロで自爆した2人の容疑者兄弟は、事件前から米国のテロ監視対象リストに含まれていたという。昨年11月のパリの同時多発テロの教訓を生かせず、欧米各国間の情報共有の問題が露呈したわけで、テロ容疑者の情報共有も重要な課題だ。

また、シリアの内戦に伴い大量の難民が欧州に押し寄せている。昨年、経済協力開発機構(OECD)諸国に保護を求めた人は約150万人に上ったが、そのうち約100万人が欧州諸国だった。ドイツなど、これまで難民受け入れに積極的だった国でも移民排斥運動が高まっている。こうした排斥感情が高まれば、「欧米社会には居場所がない」と主張し若者を勧誘するイスラム過激派に付け入る隙を与えることになる。

安倍首相は20日、シリア難民の150人を留学生として受け入れる方針を表明した。サミットでは、各国が一致して取り組むことができる具体策が求められる。

近年、新興国が台頭する中で、G7の地盤沈下や形骸化が指摘される。だが、世界情勢が一段と混迷を深める中、自由民主主義、法の支配、人権などの普遍的価値を共有するG7の首脳が一堂に会し、結束して諸課題に取り組む意義は、以前にも増して大きい。

(政治部・山崎洋介)