伊勢志摩サミット検証、同床異夢のG7各国

伊勢志摩サミット検証(上)

対中露政策での結束が鍵

 主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)は、紛争、テロ、難民などの国際的な問題への「取り組みを主導する特別な責任」を確認して閉幕した。複雑化する国際環境に日本が今後どう対応していくべきかを検証する。(外報部・本田隆文)

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G7サミット・ワーキングセッションに臨む安倍晋三首相(前列左)と各国首脳=26日、三重県志摩市(代表撮影)

 安倍晋三首相はサミットを総括する会見で「最大のテーマは世界経済」と改めて訴えた。だが、そこからは、これまで全力を投入してきた「アベノミクス」復活への悲痛な叫びのようなものすら感じられた。

 首相は「アベノミクスのエンジンをもう一度、最大限吹かしていく決意」と述べた。アベノミクスの不調を首相自身が感じていることを思わせる発言だ。

 だが、欧州から聞こえてくるサミットの「最優先課題」は難民・移民だ。昨年だけで100万人を超える難民を受け入れている欧州にとって、難民問題は喫緊の課題だ。リビアなど政情不安の北アフリカ諸国から難民船が押し寄せ、東からは、内戦で母国を追われたシリア人難民らが流入する。特にイタリア、ギリシャはすでに経済的、社会的に大きな負担を強いられている。

 安倍首相は「(難民問題の)根本原因を断ち切るため、グローバルな支援を強化する」ことで合意したと欧州の難民問題に一致して取り組むことを強調した。しかし、この「根本原因」解決の道筋は見えてこない。

 リビアはカダフィ政権崩壊後、部族勢力とイスラム勢力に分裂し、衝突を続けてきた。統一政権の樹立で合意は交わされたものの、政情の安定につながるかどうかはいまだ不透明だ。

 一方のシリア情勢はさらに複雑だ。

 サミットでは「ロシアによるクリミア半島の違法な併合に対するわれわれの非難を改めて表明」と併合を認めない姿勢を確認した。

 ところが、欧州を震撼(しんかん)させたテロの一因であるシリア内戦、過激派組織「イスラム国」(IS)の問題の解決はロシア抜きでは望めない。

 首相は「シリア情勢などにおける平和と安定を達成するためにも、プーチン大統領との対話を維持していくことが重要」と指摘した。だが、ウクライナ問題を抱える欧州は、このところの日露接近を快く思っていない。欧州を納得させるには、シリア内戦、テロ、ウクライナなどの問題で、欧米に協調して対応を取るようロシアに迫ることが必要だろう。

 安倍首相は南シナ海、東シナ海の安全保障情勢をめぐって、首脳宣言に「力による現状変更は認めない」との文言を盛り込むことに成功した。

 アジアインフラ投資銀行(AIIB)参加など、中国との経済関係を優先してきた欧州各国だが、中国の露骨な南シナ海、東シナ海への進出を前に重い腰を上げた格好だ。

 これに対し中国は直ちに「強烈な不満」を表明した。中国にとっても、欧州との経済関係は重要だ。南シナ海問題で欧米各国が日米に歩み寄ることは避けたいとの危機感の表れだろう。

 日本としては、欧州の難民・移民問題、ウクライナ問題で欧州への理解を示すことが必要だろう。G7の強い結束こそが、中国、ロシア牽制(けんせい)への早道だ。