伊勢志摩サミット、オバマ氏の「広島訪問」に劣らぬ成果出せるか
伊勢志摩サミットの焦点(下)
「世界で唯一の戦争被爆国の首相である私と、世界で唯一核兵器を使用した国の指導者が共に犠牲者に哀悼の誠を捧(ささ)げる、それが『核のない世界』に向けての一歩になると信じている」
安倍首相は14日、都内の会合で、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)後にオバマ米大統領と共に広島を訪問することについて、「アメリカの大統領が被爆地を訪問するのは戦後71年にして初めての出来事」と強調し、「原爆や戦争を恨まず、人の中に巣くう“争う心”と決別する。そのような歴史的訪問にしなければならない」と強調した。
2009年4月のプラハ演説で「核兵器なき世界」を提唱したオバマ大統領は、同年11月の訪日時に「広島と長崎を将来訪れることができたら、非常に名誉なこと。私にとって非常に意味がある」と表明。広島、長崎訪問に向けた下準備を慎重に進めてきた。
翌10年、ルース駐日米大使(当時)が米政府高官として初めて広島の平和式典に参加したことから始まった駐日大使の広島、長崎訪問は既に恒例化しており、今年4月にはサミットの外相会合に出席したケリー国務長官が岸田外相と共に広島の平和記念公園や平和記念資料館を訪れるまでになった。
オバマ大統領はケリー氏訪問でも国内外にさしたる反発が起こらなかったことを見極め、任期中最後の訪日となる今回、ついに広島訪問に踏み切ったわけだ。これは議長を務める安倍首相にとってもサミットに花を添えるまたとないチャンスとなった。
首相は今回のサミットに並々ならぬ意欲を燃やしている。日本が議長国となる08年サミットの北海道開催を決断したのは第1次政権時の安倍首相だった。ところが07年の参院選敗北とその後の体調悪化によって泣く泣く退陣した苦い思い出がある。それだけに再び巡って来たサミット議長に懸ける思いは誰よりも熱い。
昨年6月の開催場所と日程の決定から始まって、警備や議題の選定に至るまで、細心の注意を払って準備してきた。そして、通常国会の最終盤、そして参院選の直前という絶妙のタイミングでの開催となり、自ら議長となってサミットを成功させ、勢いを付けて参院選を迎える態勢が整った。
そのため首相が最大の課題として挙げたのが不透明さが増す世界経済への対応だ。先進7カ国(G7)が結束して成長戦略を提示し、減速気味のアベノミクスの国際的な障壁を取り除くのが狙いだ。それは来年4月の消費増税を再延期するかどうかの決断にも大きな影響を与える。しかし、肝心の財政出動をめぐって英独との調整が難航。テロ・難民対策、南シナ海の海洋安全保障などの課題でも、お国事情の異なるG7を結束させ効果的な対策を練り上げるのは容易でない。
そんな中、サミット終了後とはいえ、オバマ大統領と共に被爆地を訪問し、二人そろって所感を発表する歴史的な舞台が準備されたのだから、インパクトは大きい。野党も参院選に与える影響に今から戦々恐々だ。ただ広島訪問は日米同盟をより強固にする新たな外交レガシー(遺産)となっても、日本や世界が直面する課題の現実的な処方箋とはならない。地道な準備を進めてきたサミットが、オバマ大統領の広島訪問でも霞(かす)まない、実質的な成果を挙げることができるか。安倍首相の手腕が問われている。
(政治部・武田滋樹)