新たな自主ルールに制裁措置、検定中教科書の外部閲覧・謝礼問題

信頼回復へ業界のモラル向上

 教科書会社が検定中の教科書を教師らに見せて意見を聞き、謝礼を渡していた問題で、業界団体が再発防止のため、新たな自主ルール案をまとめ、文部科学省に提出した。現行ルールを厳しくし違反した会社への制裁措置も定めたが、競争が激化する中、現行ルールを形骸化させて失った信頼を回復するには、法令・規則遵守(じゅんしゅ)の徹底が必須だ。(森田清策)

検定中教科書の外部閲覧・謝礼問題

教科書会社のトップを集め指導する馳浩文部科学相(中央)=4月27日午後、文科省

 検定中の教科書を外部の人間が閲覧することは、文部科学省の規則で禁じられている。検定とは、教科書会社が制作した図書を教科書として適正かどうかを判断し「教科書」として認める制度。外部人間の閲覧を禁じるのは、この検定作業を行う文科省の「教科書調査官」や専門家からなる「教科用図書検定調査審議会」の委員への働き掛けを防止するためだ。

 また、教科書採択の公平性の観点からも、外部の人間が閲覧することは禁じられている。学校の教師らが自治体教育委員会の任命する「選定委員」「調査員」となって採択に関わる可能性があるからだ。

 教科書会社40社でつくる業界団体の「教科書協会」が平成19年1月に制定した現行の自主ルール「教科書行動基準」(20年4月に一部変更)では教科書の選択関係者に対して①金銭・物品の提供またはその申し出②供応またはその申し出③その他経済上の利益の供与またはその申し出を「問題となる行為」としてこれを禁じていた。

 だが、昨年3月に三省堂の問題が発覚してから、文科省が行った調査では21年~26年度に検定中の教科書を閲覧した公立小中学校の教師ら延べ約3500人に謝礼が渡され、そのうち約800人が採択に関与していたことが分かった。自主ルールが形骸化していたのだ。外部の人間に閲覧させること自体、規則違反であり、教師に謝礼を渡すことも自主ルール違反だ。また、謝礼の提供を受けた教師らが採択に関与することも教育者としては重大な問題だ。

検定中教科書の外部閲覧・謝礼問題

義家弘介文部科学副大臣(左)に新たな自主ルール案を手渡した鈴木一行教科書協会会長(右)=4月27日午後、文科省

 こうした事態が発生した背景には、業界の競争の激化がある。小中学校では、教科書の検定・採択は原則4年に1度。教科書会社としては1度採択されれば大きな利益となる。

 だが、少子化で教科書を使う子供の数が減って、教科書会社の経営が苦しくなって競争が激化しているのが実情。少子化はさらに進むと見られることから、業界は生き残りをかけた激しい競争に晒(さら)されている。

 事態を受けて、教科書協会は4月末、現行の自主ルールを改める「教科書発行者行動規範」案をまとめ、文科省に提出した。新たな自主ルールの特徴は、悪質な違反について同協会のホームページ(HP)で公表するなどの制裁措置を定めたことだ。

 また、新自主ルールは検定中に閲覧できる人間を、文科省に届け出た編集・執筆者と検定前から制作に協力した編集協力者、それに都道府県教育委員会に届けた教師用指導書の編集・執筆者に限定。その上で、法令・ルール違反の通報窓口を協会内に設置し、悪質と判断した場合は、社名を含む内容をHPで公表する。重大な違反を繰り返した会社は除名や協会役員の解任などの処分に踏み切るという。

 文科省も今後、不公正な事案が判明した場合、同省のHPで社名と内容を公表することを明らかにした。小中学校の教科書を発行する会社22社のトップを同省に呼んだ馳浩文科相は「今回のことを猛省し、襟を正して信頼回復に向けて対応してほしい」と強く要請した。

 これに対して、同協会の鈴木一行会長は「真摯(しんし)に反省し、失った信頼を一日も早く取り戻すよう努力したい」と陳謝した。

 だが、自主ルールの内容以前に、業界のモラルに問題があるのは明らか。現行の自主ルールも守られなかったのだから、新ルールがまた空文化しないとも限らない。教科書を売るためなら、ルール違反も行う業界の体質改善、モラルの向上が進まなければ、自浄努力は空振りに終わるだろう。