「特別の教科 道徳」の公開授業
東京都が新年度から先行実施
これまで教科外だった道徳が平成30年度から、「特別の教科 道徳」として、全国で本格実施される。これに先駆け、新年度から東京都内の公立小・中学校などで先行導入する都教育委員会は今月、教師を対象にした公開授業を目黒区立油面小学校と、台東区立御徒町台東中学校で行った。いじめ問題などを中心に、教科化のキーワードになっている「考える道徳」「議論する道徳」につながる授業が試みられた。(社会部・宗村興一)
児童・生徒への問い掛けがカギ
「特別の教科 道徳」の教科化の背景には、深刻化するいじめ問題がある。どの児童・生徒にもいじめは起こり得る問題だ。クラスで起きているいじめを見て見ぬふりする傍観者になる可能性もある。
このため、8日に行われた御徒町台東中学校の授業は、「『見て見ぬふり』をなくすためには」をテーマにした話し合いを中心に、正しい行動を取ることの難しさや大切さに気付き、人間の弱さを克服しようとする態度の育成が狙いとなった。
具体的には、教師がまず、「傍観者でいいのか」(出典・都教育委員会「人権教育プログラム 学校教育編」)を音読し、「主人公の私」「いじめられっ子のAさん」「いじめをするBさんとその仲間」「傍観者」「Aさんを助けようとするDさん」など、登場人物を確認した。
その上で、Aさんがなぜいじめを受けるようになったかを、生徒に考えさせた。「周囲の人が見ているだけだから」「Aさんが自分の意見をはっきり言わないから」などの意見が出た。ここで、「議論に値する発問」として、いじめが悪いことだとは分かっているが、なぜ見て見ぬふりをしてしまうのかを問いかけた。
まず、生徒それぞれがじっくり考えた後、4人でグループを作り話し合った。1人ずつ発表し、他の生徒がそれについて賛成や反対、付けたしなど発言。さらに、20分程してから数人の生徒に発表させた。
「助けたいけど勇気が出ない」「自分たちもいじめられるかも」「いじめがさらににエスカレートする」などの意見が出たが、この後、この状況をどうやったら改善できるかを考えさせた。すると、「注意する人を増やすべきだ」「話し合いも大切だ」などの意見が出た。最後に、授業を通して自分の考えがどう変わったかを改めて考えさせた。
4日に行った油面小学校の授業は、「本当の自由とは何だろうか」をテーマに議論させた。自分に与えられている自由について考えることを通じて、自由に付随する責任やその重さを捉え、自律的に判断し責任ある行動をしようとする態度の育成が狙いだ。
物語教材の「うばわれた自由」(出典・文科省「私たちの道徳」)を通して、自由と自分勝手の違いに気付かせる。そこで「議論に値する発問」として、自分にとって自由とは何か、それが自由であるために考えるべきことは何かを考える授業となった。
授業を終えた教師は「短い時間の中で授業をどう展開するか、話し合いをどうコントロールするかを意識してやった。児童全員の意見を聞くことが出来なかったが、ワークシートで児童の考えの幅が広がっているのが分かった」と、授業の感想を述べた。
都教職員研修センターが作成した「『特別の教科 道徳』指導読本(案)」によると、新しい道徳の授業は児童・生徒が自己の生き方の指針を持てるよう支援するため、教師の「発問」が重要と指摘する。具体的には二つある。
一つは答えが一つではなく、多面的・多角的に考え続けていくことにつながる「考えるに足る発問」。もう一つは今の考えで満足せず、他者の意見を聞いて自分の考えを修正したり、自信を持ったりする「議論に値する発問」とした。
これまでの道徳の授業は、「教材を読ませ、感想を言わせるだけで効果はあるのか」などの疑問が出ていた(同センターが実施したアンケート)。また、文部科学省が昨年5月、都内の小学校1251校、中学校602校を対象に、平成26年度の道徳教育を実施した上での課題を調査した結果、指導の効果の把握が困難と答えた割合が、小中学校ともに約60%に達した。効果的な指導方法が分からない、と答えた割合は約40%もあった。
これらの課題を解決するためには、教科化される授業は「教材を読む道徳」から「考える・議論する道徳」への転換が必要で、そのための指導方法の中心は「考えるに足る発問」「議論に値する発問」になってくる。
さらに、授業は評価されるが、その狙いは「児童・生徒が自分の成長を実感すること」「教師が自らの指導を振り返ること」。このため、通常の教科では通常、A・B・Cの評価になるが、数値は道徳にはそぐわないという理由から、記述式となる。











