大学と企業による地域貢献、琉球大学主催で講演会

「地域に対して企業・大学に何ができるか」と題して

 琉球大学は18日、那覇市で「地域に対して企業・大学に何ができるか」と題する講演会を開き、同大学と産業界を代表して3人が提言した。産業クラスターの創出を通じた地域経済の活性化が期待される中、同大学の役割に期待が集まった。(那覇支局・豊田 剛)

世界的研究拠点の形成目指す/大城肇学長

産官学連携の重要性強調/ダイキン工業井上礼之会長

「地域イノベーション」の育成を/日本立地センター鈴木孝男理事長

大学と企業による地域貢献、琉球大学主催で講演会

左から鈴木孝男氏、井上礼之氏、大城肇氏

 琉球大学の大城肇(はじめ)学長は「平成29年度から時代や地域のニーズにあわせて工学部を再編する」と明言した。現状では、IT関連など高度な専門技術を要する企業が県内で必要とする人材を見つけるのが困難で、人材ミスマッチが起きている。

 長期的ビジョンとしては、地域を越えた海外ブランド化を目指し、「アジア・太平洋地域の卓越した教育研究拠点大学」として、県や市町村、産業界による人材育成、研究力向上、イノベーション創出などに協力する。

 具体的には「熱帯・亜熱帯科学、島嶼・海洋科学、感染症研究、長寿科学、環境科学、異文化接触論、地域学など、沖縄の地域特性を踏まえた個性ある学術研究を、特化型研究として全学的、重点的に推進し、その領域での世界的研究拠点を形成する」方針だ。

 「行動するシンクタンク」として、「社会との連携や地域貢献及び地域を志向した教育・研究に関する目標を達成する」ことを目標に中期計画案を発表。地域の企業や自治体のニーズに応えた人材を育成するために、地域志向のプログラムや科目の拡充を進める。

 同大学は、文部科学省の「国立大学経営力戦略」により、重点支援の一つである「地域に貢献する取り組みとともに、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で世界・全国的な教育研究を推進する取り組みを中核とする国立大学を支援」に合致する大学の一つに認定されている。

 引き続き、ダイキン工業会長の井上礼之(のりゆき)氏は、企業が果たす地域貢献と大学・研究機関の重要性について持論を述べた。同社が多国籍企業として存在感を示すようになった秘訣として、29年前に沖縄で初めての女子ゴルフツアー「ダイキンオーキッド」を開催したことを挙げた。

 開催当時は、慎重な意見も多数あったが、当時の社長の沖縄振興に対する熱意で実現。業績が赤字に転じた年も、開催を続けたことで、企業に対する信頼にもつながったという。さらには、国際的な経済競争力のある地域は、産官学連携がしっかりし、企業が国や地域の枠を超えた経済活動をし、地域貢献していると強調した。

 具体的には、米国カリフォルニア州のシリコンバレーやシンガポールなど、産業クラスターを中心に世界で数十のメガリージョン(大都市圏域)が形成され、有機的ネットワークが構築されているという。共通するのは、世界的競争力を持つ大学・研究機関が中核となっているということだ。

 面積や風土で沖縄と似ているシンガポールにはバイオメディカル(生体医療工学)研究開発拠点「バイオポリス」がある。井上氏は「国家そのものがメガリージョンで国家を一つの企業として経営する類い稀な経営センスがある」と評価。世界から優秀なバイオメディカル分野の人材が集まっていると説明した。

 メガリージョン形成の成功の要因として①高度な技術②政治・経済安定性③ホスピタリティ――を挙げ、「沖縄は地政学的にも恵まれた立地にあり、ポテンシャルと底力がある」と評価。「琉球大学や沖縄科学技術大学院大学(OIST)が中核となって海洋資源化学、長寿健康、熱帯・亜熱帯気候の感染症対策研究などの得意分野で世界に貢献できる」と期待を示した。

 地方で産業クラスターが育っていない理由として、「地方の学生が首都圏の大学に行って、そのまま首都圏にとどまる傾向にある」と指摘。「それを防ぐには、地方の大学が特長を生かす必要がある。故郷にメガリージョンがあれば卒業後、故郷に戻る」と説明した。

 中小企業の起業・成長サポートやイノベーション推進で沖縄の経済に多大な貢献をしてきた一般財団法人日本立地センターの鈴木孝男理事長は「グローバル化の時代、企業誘致は難しくなり、内発的発展はローカルイノベーションが主流になる」と指摘。ローカルイノベーションとは、グローバルな展開も視野に入れ、地域経済を牽引(けんいん)する地域発のイノベーションのことで、「行政、産業、学術、マスコミが一体となって地域イノベーションを育てるべきだ」と主張。琉球大学を中心とした産官学連携に期待を示した。