北海道師範塾、新時代に対応する組織形態を模索
教師養成講座10期目を機に解散、新しい形で再出発へ
「学び続ける教師」像を目指して平成22年(2010年)9月にスタートした北海道師範塾(吉田洋一会長)は1月上旬、毎年恒例の冬季定期講座をオンラインで開催した。加えて同塾は、教師を目指す若者を対象に教師養成講座を開設して今年度で10期目を終える。これを節目に同塾は解散を決定、新たな組織の形を模索していく。(札幌支局・湯朝 肇)
教師も常に学びを、オンラインで最後の冬季定期講座
「志を共にした道内の教師や大学の先生たちと一緒になって北海道師範塾を結成して10年余りがたつ。この間、学校教育の現場は大きく様変わりしている。子供たちは日々成長を続けていくが、同時に教師一人ひとりも成長していく必要がある。そのためには教師は常に学び続けなければならない存在だ」。1月9日、北海道師範塾が開催したオンラインでの冬季講座で吉田洋一会長はこう語ってあいさつした。
この日の講座は昨年同様、新型コロナウイルス感染拡大を考慮してオンラインで行われた。今回が最後の冬季講座となるが、スケジュールは昨年度とほぼ同様の進行。同塾企画委員からの課題提起の後、金沢大学融合研究域融合科学系の金間大介教授による基調講演、そして会員同士によるグループ討議と続いた。この中で課題提起としては北海道南幌高校の矢橋佳之校長が「Society5・0時代の教育はどうあるべきか。教師・学校の役割」を掲げた。
金沢大学の金間教授は、「現在の若者のモチベーション構造とチャレンジ精神の源」をテーマに講演。同教授は技術経営・マーケティング論が専門だが、近年はイノベーションの動機付けや上司と部下のジェネレーション・ギャップの解消、さらには教育分野での学生の学習・研究意欲の源泉といった分野にまで研究範囲を広めている。
この中で最近の若者の意識動向について金間教授は「『学生に就職後、仕事を通してどのような生活を送りたいか』という質問に対し、近年は『楽しい生活をしたい』が圧倒的に多く、『社会のために役立ちたい』と答える若者は減少傾向にある。また、学生の起業意欲を国別で調べてみても日本の学生の起業意欲の低さは目立つ。というよりもそもそも起業に関心を持たず、個人志向が強いことが顕著に分かる」と語る。
また、この日は同大学経済学類3年の正木真優さんが自身の研究テーマを披露した。文部科学省は現在、学習指導要領の柱として「主体的・対話的で深い学び」を掲げているが、正木さんは「子供たちに主体的に学ばせるためにどういう教育方法がいいか議論する前に、そもそも子供たちは、どのような時に主体的な学びを始めて、どのような場合に学びを継続できるのか、また、どのような時に学びを止めてしまうのかを明らかにする必要がある」との問題意識を持ちながらインタビューを通して分析研究を進めているという。
10年で100人近い教師が羽ばたく、北海道教育界に足跡
4時間余りにわたる冬季講座には道内から50人近くの教師や教育関係者が参加。講座を終えるに当たって吉田会長は、同塾を解散させることについて、「北海道師範塾をスタートさせた頃の北海道の教育事情を振り返ると、全国学力テストの成績は常に最下位レベル。いじめや不登校以外にも教師の不適切な服務規律違反が頻繁化するなど、決して誇れるような状況ではなかった。そうした中で教師が教師たる自覚と矜持(きょうじ)を持ち、子供たちのために自ら襟を正し、研鑽(けんさん)を積んでいくという思いで始まった」と振り返り、さらに「当塾としてはこれまで教師養成講座のほかに夏冬の定期講座、「研究紀要」「ニュースレター」の発行を積み重ねてきた。ただ、こうした活動も単なる組織の存続のために行うのでは意味がない。教師養成講座10期目を節目としていったん解散し、新しい形で再出発することにした」と話す。
ちなみに、教師養成講座は同塾の会員による無償のボランティア事業であったが、この講座から10年間で100人近い若者が教師として羽ばたいていった。
北海道は教職員組合による運動が強固で学校現場が混乱していたが、そうした中で国旗掲揚、国歌斉唱、教育者としての矜持を教える北海道師範塾の取り組みは北海道の教育界に大きな足跡を残したことは間違いない。







