アート展開催、科学×芸術×ホテルで“化学変化”
世界トップクラスの研究機関、沖縄科学技術大学院大学(OIST、沖縄県恩納村)の研究員やその家族らが制作したアート作品の展示会が、恩納村のホテルで開催されている。科学とアートの共通点を見いだしてほしいと関係者は呼び掛けている。(沖縄支局・豊田 剛)
沖縄科学技術大学院と恩納村がムーンビーチホテルで開催
展示会は、研究機関そのものや研究者のアート作品に親しみを持ってもらおうとOISTが地元のリゾートホテル、ムーンビーチホテルのギャラリーで初めて開いた。
ウクライナ出身の職員で自ら画家でもあるオクサナ・ブルジュアンさんが同ホテルのギャラリーを訪れ、話をする中で、自分たちの作品を発表する場が持てればと提案し、ギャラリーの責任者である角(すみ)敏郎さんと意気投合した。
オープニングセレモニーで角さんは、「科学者とアーティストの共通点は作品ができたらすぐに発表したい欲望があること」と指摘。その上で、OISTと地元恩納村が交流を始めて10年の節目でこうしたアート展を開くことができることは喜びだ」と話した。
続いて、OISTのサマンサ・ロス副学長は、量子理論を研究したマックス・プランクはピアニストでもあったことに触れ、「直観と創造力は科学者とアーティストに共通する。新しいアイデアは芸術的創造から現れるものだ」と述べた。
会場には、OISTの研究員や学生、それに家族など、およそ50人の絵画や彫刻などの作品、150点が展示されている。出展者の最高齢は83歳、最年少は6歳と幅広い。
最大の目玉はシュンケ氏作、「4面体の輪」のオブジェ
このうち、最大の目玉は、9個の4面体が回り続けるオブジェ、カライドサイクル(4面体の輪)だ。リング状の構造で、内側と外側が連続的に流れるように回転させることができるもの。展示物の原型はOISTキャンパス内にある。
作成したのはドイツ出身のヨハネス・シュンケ博士。自身が所属する「数学、力学、材料ユニット」では、芸術と科学の接点をテーマに研究活動を続けている。シュンケ氏は、複雑なカライドサイクルを、メビウスの帯にちなんで「メビウス・カライドサイクル」と名付けた。機械仕掛けで動くカライドサイクルを造るのは困難と思われていただけに、この作品は世界的に高く評価されている。
シュンケ氏は、「科学は世界の諸問題に対して希望を与えるもので、特定の科学者の不祥事などを理由に科学全般を不信することは避けるべきだ」と指摘。その上で、「今回は多くの科学者が作品を出展している。科学者は単なるオタクではなく、普通に感情があることを作品を通じて感じてほしい」と呼び掛けた。
沖縄伝統の織物「芭蕉布」の電子顕微鏡撮影写真も展示
もう一つの目玉は、沖縄の伝統的な織物「芭蕉布」を電子顕微鏡を使って撮影した写真が展示されている。芭蕉布を研究する研究員が撮影したもので、繊維の断面が、見る人によって花やハチの巣などに見え、反響を呼んでいる。
また、研究員の家族などが描いた絵画は沖縄の自然をテーマに、青い海や魚、花々などが表現されている。このほか、和紙を折って琉球舞踊を表現した作品や、沖縄の何気ない風景を科学者目線で撮影した写真などがある。
作品の一部は販売されている。オクサナさんは、自らの作品が売却されれば地域のボランティア団体に全額寄付する。ほかにも、数多くの出展者がその売上金を地域で必要とされる組織・団体に寄付することを表明している。地域とOISTの絆の強さを実感する。
展示会は11月14日まで。開館時間は午前10時から午後6時まで。