世界に誇る日本の救急車の親切な対応を体感
新型コロナの新規感染者が、東京で一日2000人近くを数えていた頃だった。朝早く、駅に向かう路地を歩いていたら、犬を連れた女性(60歳前後か)が血相を変えて走り寄ってきた。
「人が倒れているので、救急車を呼んでください。散歩中でケイタイを持っていないので」と慌てて説明する。付いて行くと、少し離れた路上に男がうつ伏せに倒れていた。両腕で顔を隠すようにしていたが、服装から若い男と分かった。「オイ、どうした?」と声を掛けても体を揺らしても反応なし。
「もしかして、コロナでは?」と、不安がよぎる。とにかく119番すると、。「息をしていますか」と聞いてきたが、「口元が隠れているので、分からない」。すると、「人工呼吸はできますか」と聞くので、「やったことがないので」と言葉を濁すと、「では、5分ほどで救急車が到着しますから、そこにいてください」と指示してきた。
まさか、オレに人工呼吸させるつもりだったのではないか、もしコロナだったらどうするのか、などといぶかっていると、突然、男が起き上がった。酔っ払って寝ていたのだ。「人騒がせな!」と憤慨しながら、「今、救急車が来るから、座っていなさい」と言ったが、体をフラフラさせながら去ってしまった。
仕方がないので再び119番し、もう必要ない旨伝える。しかし「間もなく救急車が到着します。男性を探すので、服装と去った方向を教えてください」というので、それを説明して、私は駅に向かった。40分後、消防署から電話が入った。「男性を探したが、見つかりませんでした」と知らせてきたのだ。
マニュアル通りの対応なのだろう。しかし、コロナ禍で忙しい時に、酔っ払い男を探すことも、通報者に結果報告する必要もないのに、と思う一方で、救急車が有料の国や、軽傷者の利用を拒否する国もある中、日本の救急車の親切な対応を誇りに感じた朝だった。(森)