児童虐待増加、児相と警察の連携強化を


児童

 全国の児童相談所(児相)が2020年度に対応した虐待相談件数(速報値)が前年度より1万1249件(5・8%)増え、20万5029件に上った。20万件を超えたのは初めてで、集計を始めた1990年度以降、30年連続で最多を更新した。

 「心理的虐待」が6割

 内容別では「心理的虐待」が12万1325件(前年度比1万2207件増)で最も多く、全体の約6割を占めた。児童の目の前で家族が暴力を振るう「面前DV(ドメスティックバイオレンス)」について、警察から児相に通告するケースが増加し、押し上げ要因となった。殴る、蹴るなどの「身体的虐待」は5万33件(同793件増)だった。

 最新の研究では、心理的虐待が子供の脳に与えるダメージは、身体的虐待よりも大きいことが分かっている。極めて深刻な事態だと言わざるを得ない。

 児相への通告主体で最も多いのは「警察等」で、以下「近隣知人」「家族親戚」など。児童虐待への社会的な関心の高まりが児相の対応件数の増加につながっている面もあろう。

 一方、新型コロナウイルス感染対策として20年3月以降、各地で行われた一斉休校の影響で「学校」「幼稚園」「保育所」が通告主体となった件数は減少した。虐待が通告されずに家庭内で潜在化している可能性も懸念される。児相や警察の情報収集とともに、地域住民の協力も求められる。

 新型コロナ感染拡大で家族が在宅する時間が増えたことで、関係が悪化し、児童虐待につながったことも考えられる。もっとも、児童虐待はコロナが広がる前から大きな問題となっていた。感染拡大の有無にかかわらず、関係機関が対応力を高めていく必要がある。

 その意味では、児相と警察の連携が重要だ。東京都目黒区で18年3月、5歳女児が死亡した事件を受け、政府は同年7月、警察と児相の情報共有の徹底を盛り込んだ緊急対策を関係閣僚会議で決定した。しかし厚生労働省の調査によると、虐待情報を警察と全件共有している児相は約4割にとどまっている。

 連携が強化されれば、通告を受けた児相は事案を抱え込むことがなくなり、警察は緊急時に迅速な初動対応を取れるようになる。虐待の早期発見のためにも、児相と警察が協力して臨むべきだ。

 児相で児童虐待に対応する児童福祉司は今年度中に初めて5000人を超える見込みとなっている。ただ増員の影響などで、20年4月1日時点で全国の児童福祉司の約半数が勤続3年未満と経験が浅い状態だ。厚労省は子供家庭福祉の分野で新たな資格の創設を検討しているが、人材の専門性を高め、虐待の減少につなげる必要がある。

 自民総裁選でも議論を

 日本では現在、少子化が問題となっている。こうした中、児童虐待が増加し続けていることを、社会全体で深刻に受け止めなければならない。

 虐待を防止し、家族の絆を深めるため、親の孤立を防ぐ3世代家族の重視や、憲法改正での「家族条項」の明記などについて、自民党総裁選でも建設的な議論を行ってほしい。