北海道から、「学び続ける教師」を目指して
いじめや不登校、学力の格差問題などの教育的課題が山積する中、「教師としての技量を高め常に学び続ける教師」をモットーに活動を続ける北海道師範塾(会長、吉田洋一・元北海道教育長)が今年10周年を迎える。同塾では毎年夏・冬の定期講座を設けているが、今年の冬季講座は新型コロナウイルスによる感染拡大によって1月9日、オンラインで実施された。(札幌支局・湯朝 肇)
北海道師範塾が10周年、オンライン形式で冬季講座を開催
「社会が加速度的に変化していく中で、子供たちは日々成長していく。それに合わせて子供たちと関わりを持っている学校の教師こそ、学び続ける存在でなければならない」――1月9日に開かれた北海道師範塾創立10周年記念冬季講座で吉田洋一会長は、講話の中でこう語る。
昨年の夏季講座は新型コロナウイルスによる感染拡大で中止を余儀なくされた。今年の冬季講座は同塾事務局長で星槎道都大学社会福祉学部特任教授の藤根収氏の研究室を“発信本部”とし、オンライン形式で実施。10周年記念という節目から講座のテーマは「これまでの北海道師範塾から次の10年へ」。オンラインには道内の小中学校、高校などで教壇に立つ教師や大学関係者など100人余りが参加した。
教育再生実行会議の谷合内閣参事官/デジタル化推進が時代の潮流
基調講演には東京から内閣官房教育再生実行会議担当室の谷合俊一参事官が「我が国の教育改革の方向性」について話し、前半は同会議がこれまで実際に取り組んできた11の提言について説明。
その上で、谷合参事官はポストコロナ期における学びの在り方について、「今後、感染症や災害などにより学校の臨時休業を余儀なくされる時代が再び生じた場合でも子供たちの学びを確実に保証し得る環境を整備・構築していくことが極めて重要だ」と訴え、ICT教育などデジタル化の進展を踏まえながら取り組んでいくことが時代の潮流であることを強調。
さらに人口減少で地方が衰退していく中で教育の充実を図るには、コミュニティースクールなど学校・地域・家庭が教育に対して具体的な目標を持ちながら社会全体で取り組むことの重要性を説いた。
元北海道教育長の吉田師範塾会長/教育行政に携わった責任果たす
一方、吉田会長は講話の中で平成22年9月に北海道師範塾を創設した経緯について説明。「今の若い人には46協定と言葉は馴染(なじ)みがないかもしれませんが、北海道には昭和46年に北海道教育委員会と教職員団体(北海道教職員組合・北海道高等学校教職員組合連合会)の間に結ばれた「労使協定」あり、これが北海道の教育に大きな弊害をもたらしていました。平成18年、北海道教育長に就任したのですが、協定の全面廃棄を決定した」と北海道の教育正常化に力を注いだ当時の状況を振り返りながら、その一方で、北海道の教育の状況については、「平成17年に起きた滝川市小6いじめ事件に見られるように、いじめ問題が深刻化し、また不登校、学力の低下などさまざまな課題を抱えていた。そうした問題に取り組みながら、一つ一つ対処していった。道教委を退職した後も教育行政に携わった者として責任を果たすという思いで仲間有志と共に北海道師範塾を立ち上げたわけです」と経緯を話した。
学び成長し続ける教師を目指す北海道師範塾、教師養成講座も開設
同塾には「目標3か条」があり、その中には「学び続ける教師だけが、教壇に立つことを許される。成長し続ける教師だけが、子供を成長させることができる。我々は、この事を肝に銘じ、教師の道を進むことを誓う」とある。北海道師範塾にとって教師の質を高めるということはまさに、「教師魂」を磨くということなのだろう。
そして、この目標を実現させるため、これまでさまざまな事業を展開している。夏季・冬季の定期講座もその一つだが、その他に教師を目指す若者を支援するため、平成23年から有志・ボランティアによる教師養成講座を開設。これまでに100人近い教師を道内外に輩出している。
この日の冬季講座には、養成講座を受けて教師になった4人の若手教師がシンポジストとして登場し、「これからの北海道師範塾に期待するもの」と題して意見交換会を行った。この中で3年前に市立札幌旭丘高校の教諭になった宍戸幸希さんは、「令和4年から高校も新しい学習指導要領が実施される。私は国語を担当しているが、変化の大きい時代の中、養成講座で教えられた『学び続ける』という精神をしっかり持っていきたい」と語る。養成講座で巣立っていった若手教育者には同塾の精神がしっかりと根付いているようだ。