日本の未来の教育を創る「へき地・小規模校」

北海道教育大学が教育フォーラムを札幌市内で開催

 人口減少、少子化によって学校の統廃合が進んでいる。地方においては一学年一クラスといった小中学校も多く、複式学級とならざるを得ない地域もある。その一方で、「へき地教育は教育の原点」として、へき地・小規模校のメリットを掲げ、具体的に実践例を挙げて新しい教育の在り方を模索し討論する北海道教育大学主催の教育フォーラム「日本の未来の教育を創造する へき地・小規模校教育」がこのほど、札幌市内で開かれた。(札幌支局・湯朝 肇)


へき地校には人格同士や自然文化と触れ合う「教育の原点」がある

 「かつて昭和34年に文部省(当時)が『へき地教育とその振興方策』を打ち出した。その中で、『へき地校は教育の本質的基盤、人格と人格の触れ合いをつくるという意味において、きわめて好条件にある』と謳(うた)っているが、へき地校が持つ良さは今でも変わらない」――昨年12月3日に開かれた北海道教育大学主催の「へき地教育推進フォーラム」で講師として招かれた文部科学省初等中等教育局の石田有記・学校教育官は、へき地・小規模校の持つ教育の可能性をこう語った。

 2020年度から全面実施の新学習指導要領(中学校は21年度から)が目指す教育として幾つか挙げると、新しい時代に必要となる資質・能力を踏まえた「知識・技術の習得」の他に、「心の教育の充実」「キャリア教育の推進」「ふるさと教育の推進」「コミュニティスクールの推進」などが謳われ、その施策として①自主的・体験的な活動の推進②全校縦割り活動による異学年交流③地域の自然や文化、伝統との触れ合いを通した郷土愛の醸成――などが挙げられるが、そのための「社会に開かれた教育課程の実現」が不可欠としている。

 石田氏は、こうした教育目標を実現するにはへき地・小規模校は大きな可能性を有していると説く。「へき地・小規模校は都市部の大規模校に比べて悪条件にあると思われがちだが、体験学習や異学年交流、さらには地元との交流という点では、新しい教育活動を実践できる条件がある。ICT(情報通信技術)などを用いていけば日本の教育活動の先導的役割を担う可能性がある」と明言する。

コロナ禍で基調講演とシンポはオンラインに、全国から200人参加

日本の未来の教育を創る「へき地・小規模校」

2020年12月17日、オンラインによって行われたシンポジウム

 北海道教育大学が主催する同フォーラムは今回で18回目。本来は2020年の3月に行う予定であったが、新型コロナ禍のために延期が続き、今回の開催となった。「通常は基調講演とシンポジウムを続けて1日で行うのですが、今回は密を避けるためオンラインで12月3日と17日の2日間で行うことにしました。全国からへき地・小規模校に関わる先生や教授、大学生など約200人が参加しました」(蛇穴治夫北海道教育大学学長)という。

 続いて12月17日に同大学札幌校で行われたシンポジウムには、玉井康之・同大副学長をコーディネーターに、池野敦・道教委総務政策局長、伏木久始・信州大学教授、渥美伸彦・水上丈実・北海道教育大学旭川校へき地研究センター員がパネリストとして参加、それぞれへき地校での実践研究などを報告した。

 この中で、渥美氏は、名寄市立中名寄小学校での支援教育として子供たちの話し合いの内容を文字に表すことで、発言内容を可視化し「振り返り」の材料とすることを提案。「文字の可視化は大規模校なら先生の負担になるが、小規模校ならば可能。子供一人ひとりの成長を見ることができる」と語る。

 また、伏木氏は長野県のへき地校での異学年混合学級の取り組みを紹介。「学校の統廃合はすでに限界にきており、複式学級での個別最適な学びというものをしっかり捉え、その子なりの学びの意味と試行錯誤を大事にする学びを尊重していくことが大事」と訴える。

 全国で校内11学級以下の小学校の割合は44・3%(2019年調べ)に対し、北海道は55・2%に上る。さらに道内でのへき地指定校は、381校と道全体の36・1%を占める。小規模校化は今後さらに進むとみられるだけに、へき地・小規模校教育へのさらなる取り組みが求められている。