「生物兵器への備え急務」 NATO事務総長
北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は12月29日、ドイツ通信(DPA)とのインタビューで、生物兵器の脅威を指摘し、「新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)は、生物兵器が武器として使用されたらどのような結果をもたらすかを示している。われわれは生物兵器の攻撃に対抗できる態勢を構築しなければならない」と警告を発した。
(ウィーン・小川 敏)
コロナで脅威鮮明に
テロ組織が利用する恐れも
ストルテンベルグ事務総長が生物兵器の脅威を強調したのは、中国発の新型コロナの感染拡大とその影響があることは言うまでもない。9日現在、世界で約8886万人の累計感染者を出している。死者数約191万人は、音楽の都ウィーンの全人口を上回る。
ノルウェー出身のストルテンべルグ氏は、「ウイルスは実験室でそのパワーを増幅できる。兵器化されたウイルス開発のノウハウがテロリストの手に落ちた場合を考えておかなければならない」と主張。「例えば、生物兵器が特定の対象を殺害するように製造された場合はホラーシナリオだ。生物兵器が白人だけを殺害できるとか、黒人だけを殺すウイルスといった場合だ。そのような生物兵器が過激派によって使用された場合、その被害は膨大なものとなるだろう」と語った。
生物・化学兵器は破壊力こそ核兵器より劣るが、その影響力が極めて甚大であることは新型コロナウイルスを考えれば理解できる。感染力の強いウイルスが武器として使用された場合、感染地は短期間で拡大し、人間の命だけではなく、世界の経済活動に大きなダメージを与える。そしてその発生源を見つけ出すことは極めて難しい。
生物・化学兵器の製造、使用を禁止する多国間条約は既に施行されている。生物兵器禁止条約(BWC)は1975年3月に発効済みだ。問題は、化学兵器や生物兵器を使用した国に対して制裁と検証が実施されていない、という現実だ。そこで「NATOは生物兵器が使用された場合を想定して、その対抗処置を考えておかなければならない。NATO憲章第5条に基づき、生物兵器の攻撃を受けた場合、全ての加盟国はそれに対抗しなければならない」(ストルテンベルグ事務総長)というわけだ。
生物兵器の脅威を警告したのはNATO事務総長が初めてではない。グテレス国連事務総長は過激派テロ組織が新型コロナウイルスのような細菌を利用する「生物テロの危険性」が高まってきたと警告を発している。
大陸間弾道ミサイルなどは、非政府組織が製造し、それをテロに利用することは難しいが、新型コロナウイルスのような病原体は生物学の知識を有する者ならば製造でき、なおかつ広範かつ甚大な被害をもたらすことができる。
病原体・毒素の保安管理などバイオ・セキュリティーは、核査察協定(核セーフガード)と同様、一層の強化が急務となる。グテレス国連事務総長は1975年に施行されたBWCの強化を求めている。バイオ・セキュリティー強化の必要性は、世界が2020年の新型コロナ感染問題から多くの犠牲を払って学んだ教訓だ。
世界保健機関(WHO)は5日、新型コロナの発生源へのオン・サイト・インスペクション(現地査察)のために武漢市に調査団を派遣しようとしたが、中国側に受け入れを拒否された。中国は11日になって受け入れを表明したが、武漢での査察ができるよう強く要請すべきだ。