上陸ハリケーン勢力減衰期間、50年前の2倍に
海面水温上昇と連動で、OIST研究チームの論文がネイチャー誌に掲載
沖縄科学技術大学院大学(OIST)はこのほど、上陸したハリケーンの勢力が弱まるまでにかかった時間が50年前の2倍になっており、海面水温の上昇と連動していることを明らかにした。研究論文が11月12日付で英科学誌ネイチャーに掲載された。(沖縄支局・豊田 剛)
チャクラボルティ教授、ハリケーンを「自然の巨大熱機関」と形容
上陸後のハリケーンの勢力について研究したのはOIST流体力学ユニットのピナキ・チャクラボルティ教授(41)と博士課程のリン・リー(28)さんらの研究チーム。温暖化が進むことで、ハリケーンが長時間にわたって勢力を維持し、被害が拡大する可能性を示した。
研究チームはまず、1880年代から現代までの気温を調べた。その中で、1960年代から50年間、急激に上昇していることに気付いた。その上で、1967年から2018年にかけて北米大陸に上陸したハリケーン71個を調べた。すると、上陸後、ハリケーンが減衰するまでの時間が平均17時間から33時間と約2倍になっていることを解明した。
チャクラボルティ教授は、ハリケーンを「自然の巨大熱機関」と形容する。自動車に例えると、ガソリンの熱エネルギーを往復・回転エネルギーに変える際、エンジン燃料に相当するものが海の水蒸気による上昇気流だ。海上が温まると水蒸気が増え、上昇気流も強くなる。海水の温度が上がれば上がるほど、強度の強いハリケーンが増えていくと指摘した。
ハリケーンはコップの中の水と同様に、かき混ぜるのをやめると回転が弱まるのと同様に、陸地との摩擦で渦の回転速度が弱まって緩慢になるという仕組みになっている。世界中のハリケーン研究のほとんどは、海上での研究で、陸上での研究は進んでいなかった。
地球全体の温暖化が上陸したハリケーンの減衰するまでの時間に影響
そこで、チャクラボルティ教授を中心とする研究チームは「減衰が単に摩擦が理由ではなく、隠れた要素があるのではないか」と考えた。それで、「地球全体の温暖化が要素となっているのではないか」と推論し、研究を進めた。
研究チームは、海面温度が26度と30度の海で発達したハリケーンが上陸した場合の減衰するまでの時間の2パターンをコンピューターでシミュレーション・解析した。26度の海で発達したハリケーンは減衰するまでに約17時間、30度では約29時間と大きな差が出た。また、上陸後、水分を除去したシミュレーションでは、ハリケーンは一気に減衰した。これは海面温度に関わりなく、同様に減衰した。
海面水温は過去50年で0・6度上昇したことが分かっている。その結果、気圧配置の変化はなかったが、ハリケーンの経路が変化し、上陸地点がより東寄りに変化したという。これがハリケーンの減衰時間が緩慢になった要因の一つだと分析している。
それぞれ最大風速の基準に違いはありますが、熱帯低気圧が存在する地域によって、その呼び方が違う。台風は東経180度より西の北西太平洋および南シナ海で日本の分類。ハリケーンは北大西洋、カリブ海、メキシコ湾および西経180度より東の北太平洋東部、タイフーンは北太平洋西部、サイクロンはベンガル湾、北インド洋に存在する熱帯低気圧が発達したものを指す。また、ローカル名ですがオーストラリア西海岸ではウィリーウィリー、フィリピンではバギオと呼ばれる。
待たれる研究結果、日本上陸の台風は減衰時間をより短いスパンで
呼び名や勢力の強い・弱いはいろいろあるが、基本的な仕組みは同じだ。そのため、この調査は日本を襲う台風でも当てはまる。海面水温の上昇とともに減衰までの時間が増える傾向にあることは間違いないという。ただ、細長い島国の日本では台風が上陸してからの滞在時間が短いので、減衰時間をより短いスパンで調べる必要があると指摘した。
ここ数年、国内では台風がもたらす豪雨災害が深刻だ。日本に上陸する台風の減衰に関する研究結果が待たれる。











