ICT教育の効用とは

大きく広がる学びの環境

北海道教育大学教職大学院旭川校特任教授 北村 善春氏に聞く

 近年、あらゆる分野でICT(情報通信技術)の導入が進んでいる。教育界でもパソコンやタブレットを使ったICT教育が広がりを見せている。人口減少による学校の統廃合や学級減が続く中で教育のICT化に寄せる期待は大きい。北海道教育大学教職大学院旭川校特任教授の北村善春氏に、ICT教育の現状や課題について聞いた。
(聞き手=湯朝肇・札幌支局長)

遠隔操作でつながり
小さな学校多い地域で効果

最近、ICT教育という言葉をよく聞きますが、具体的にはどのような教育をいうのでしょうか。また、ICT教育が導入された背景には何があるのでしょうか。

北海道教育大学教職大学院旭川校特任教授 北村善春氏

 きたむら・よしはる 昭和34年9月生まれ、長野県出身。二松學舎大学文学部卒。59年、道立高校(教諭)、文部科学省初等中等教育局、道立教育研究所、道立高校(教頭、校長)、日高教育長などを経て、平成28年、北海道教育庁学校教育局長、30年、北海道立教育研究所長、令和2年4月より北海道教育大学教職大学院旭川校特任教授に就任。

 ICT教育とは文字通りICTを活用した教育ということになります。授業を担任する教師や児童生徒が使うコンピューターやタブレットなどの情報端末機器、さらに大型テレビやプロジェクター、電子黒板などの大型提示装置などを用います。また、インターネットと接続していなければならないので、超高速の無線LANやデータを保管する学校のサーバー、最近ではクラウド上での保管などが必要になります。もちろんセキュリティーに関するソフトウエアの整備も大事。

 こうしてみるとICT教育は非常に大掛かりな機材の導入ということになりますが、文部科学省は2018年度から「教育のICT化に向けた環境整備5カ年計画」を進め、昨年12月には児童生徒一人ひとりに端末1台を持たせるGIGAスクール構想を打ち出しています。

 背景には、ビジネスシーンや個人の生活の中でICTが頻繁に使われているという実態があり、その活用は、あらゆる場面において今後一層増加することが予想されています。現在、会社や事務所にいなくても、自宅を仕事場にしてテレワークを行い、クラウド上からデータを呼び寄せ仕事をし、そのデータを保管するというように家に居ながらにして仕事をされておられる方がいらっしゃいます。これは、場所や時間を限定せずに柔軟な働き方が可能になっているということです。

 今回の新型コロナの感染防止対応が、そうした働き方に拍車を掛け、これまでの生活を一変させようとしています。従って、教育の現場も進化していくICT化に備えて人材を養成していくための力を蓄えなければならないという背景があります。また、少子化が進む中、子供たちが成長してこれからの社会で生きていくためにも、学校の学習でICTを活用できる環境を整備することは不可欠と言えます。

ICT教育を進めることで得られる効果とは何ですか。

 子供たちは学校という集合体の中で学んでいます。それはそれで大切なことですが、一人ひとりの学習理解度は違います。そういうときに多くの情報を瞬時に提供したり処理したりしてくれるICTを活用すれば進度に応じた学習、すなわち個別最適化学習がより実現しやすくなります。

 もちろん、これまでも学校では習熟度別学習を行ってきましたが、ICT機器の整備は、自分の分からなかったところを自分で明らかにして自分で解決するという主体的な「学び」を実現する環境が、さらに加わったと言えるでしょう。

 また、北海道のように小さな学校が多い所ではICTは非常に効果的です。一つの町に一つの小学校、一つの中学校だけのところが結構あります。学年一クラスが非常に少人数の学校とか、一つの中学校で教科の先生が1人だけといったような学校もあります。

 もちろん、小さな学校でもその特性を生かして取り組んでいる学校はありますが、児童生徒がより多くの人と交流し意見を交わして視野を広げる学習を展開することには苦労されています。そうしたときに、隣の町の学校や本州の学校の児童生徒とICTを使って共同授業を行えば、そこでいろいろな考えや意見を聞くこともできます。さらに大学や研究機関ともつながれば、より高度な知識を獲得し視野を広げることも可能です。

 ICT教育は、地域の広域性や学校の規模に左右されることなく子供たちに学びの環境を広げてあげることができるのが最も大きなメリットと言えます。教える先生側にとっても、研修などで学校を抜けるわけにはいかない状況もあります。

 仮に、研修がICTを活用して配信されれば、学校に居ながらにして研修を受けることができるので時間の短縮にもなり、得られる効果は大きいものがあると思います。道立教育研究所でもこの態勢を検討していると伺っています。

今回の新型コロナ騒動で長い間学校が閉鎖されました。そうした時にICTを使っての授業が進められたと聞きますが。

 大学はほとんどがオンライン授業ですね。高校や中学校でも先生が自ら授業を動画で撮り、それを生徒に配信して勉強してもらうなど積極的にICTを使っていたという話を幾人かの校長先生から伺っています。動画を提供した教師は、自分の授業を見直す機会にもなったと言います。

北海道のICT教育の進捗(しんちょく)度合いはどうなのでしょうか。

 北海道は平成20年度から離島や遠隔地の道立高等学校と都市部の高校が、ICTを使って遠隔授業を進めるなど、全国に先駆けて取り組んできました。来年度からは札幌市にある道立有朋高校の中に北海道高等学校遠隔授業配信センターを設置し、本格的な授業を進める予定で独自の取り組みを進めていると聞いています。

 一方、私が前職の時にお話を伺った高知県は、GIGAスクール構想に合わせICT教育の本格稼働に向けて着々と進めているようです。同県は山間地が多いため、そうした地理的背景と教育環境の整備という視点からも導入を進めておられるのではないでしょうか。

教師にとってICT教育のポイントはどのようなところにあると思いますか。

 40人のクラスでのICTの使い方、5人のクラスでの使い方は決して同じではありません。また、教科や総合的な学習の時間などの特性を踏まえた使い方もあるでしょう。