障害者と健常者が共生を目指すスポーツ振興
青森県弘前市で共生社会を目指し、障害者も健常者も共にスポーツに親しめる拠点づくりが進められている。平成28年度から、スポーツ庁の「Special プロジェクト2020」事業を受託したもので、弘前大学教育学部や同学部附属特別支援学校が中心となって地域のスポーツ団体などと連携。取り組みは「弘前大学モデル」として注目を集めている。今年度は9月から新たに幼児のための取り組みも始める。(市原幸彦)
「弘前大学モデル」として注目集める取り組み
事業の大きな柱は、特別支援学校や各校の支援学級に通う児童・生徒が参加する「わいわいスポーツクラブ」の運営だ。サッカーやバスケット、フライングディスクなどを、土曜日や長期休暇中に行っている。昨年度から障害者も健常者も一緒になって活動するインクルーシブをテーマに進めている。
1月、地元の児童・生徒たちの憧れの的になっている社会人サッカーチーム「ブランデュー弘前FC」を招いて、「わいわいスポーツクラブ」を実施し、子供たち24人が参加した。青森市や八戸市から来た子供もいた。
小学部の子供がゴールすると、「やったー!」とハイタッチして喜び合い、「サッカーの面白さを教えてもらった」と喜ぶ高等部の男子もいた。スポーツの楽しさに触れた子供たちは”自分もできるんだ”と自信を深め、生きる力を身に付けているという。
知的障害と視覚障害がある女子生徒の母親(48、青森市)は「障害があると、どうしても家にこもりがちになってしまう。いろいろな人と交流することは、とても良いこと」と感想を寄せた。
弘前大学教育学部附属特別支援学校(富野地区)が平成29年に、津軽地域の特別学校に通う児童・生徒の親を対象にした調査では「日ごろからスポーツをしている」と答えた子供は26%にとどまった。保護者から「どこに行ってスポーツをすればいいか分からない」という声が出され、運動する場の確保が課題だった。
また、昨年度まで同校が主体となって同校の体育館を使っていたが、健常者が来にくかった。「スポーツは共生社会のための一つの手段。今年度から本格的に取り組み地域に広げていく。そのため弘前市健康こども部スポーツ振興課と共催で実施し、市の体育施設等を利用していく」と同校地域連携部の中嶋実樹部長。
地域の団体と連携、「“ほんもの”に触れる機会通じ競技力向上目指す」
運営スタッフは、地域の障害者スポーツ指導員など地域の人材と連携し、専門的な部分も教えてもらう。
学校を卒業した後は、ユニバーサルスポーツクラブで開催しているスポーツ教室につなげていく。パラリンピック公式種目「ボッチャ」「フライングディスク」など、障害の有無に関係なく、ユニバーサルスポーツを楽しむ大型クラブだ。
「取り組みをつなげ、”ほんもの”のスポーツに触れる機会を通して、障害者スポーツにおける競技力の向上も目指す。このように、生涯を通して安心してスポーツを楽しむ環境を整えたことや、地域と連携している点が弘大モデルの特徴です」と中嶋部長。
そして今年度は、新たに県内の幼児期の障害児に体を動かす場を提供する「きっずパークとみ~の」も始める。9月5日に第1回を開催。3月末まで10回を予定している。同校の第1体育館でトランポリンやボール遊びを楽しめる。3歳から小学生までが対象だ。
「幼少期は皆、好奇心が旺盛で、その時代の体験が当人に大きな影響を与えるケースも少なくない。小さな頃に親しんだ競技を生涯にわたって続けることになれば」と中嶋部長。附属小学校内に学習支援室「ぴあルーム」を開設し、教員を派遣。インクルーシブ子育て相談も行う。
情報の周知が課題、情報発信に力を入れていく
県外との連携も進む。10月31日(土)に、障害者のための第4回フライングディスク交流大会を計画している。昨年度は福島と共催だったが、今年度は岩手も加えた東北3県で開催する。インターネットで結ぶサテライト大会だ。
課題は、これまでスポーツの参加に関する情報の周知が十分ではなく、イベント後に知った人や保護者が多かったことだ。今後、弘前大モデルのリーフレットを作るなど、情報発信に力を入れていくという。






