新学習指導要領 内容充実、学校に主体性求める

北海道教育大学札幌校学校臨床教授 横藤 雅人氏に聞く

 新型コロナウイルスで小中学校、高校、大学などの教育機関は現在、休校・休学となっている。そうした中で小学校は今年度(中学校は令和3年度)から新学習指導要領がスタートする。平成29年度から31年(中学校は令和2年度)までの周知・移行期間を経ての全面実施となるが、改めて新学習指導要領のポイントについて北海道教育大学札幌校学校臨床教授の横藤雅人氏に聞いた。
(聞き手=湯朝肇・札幌支局長)

タブレット活用には反対
ICT教育より読解力を

小学校で今年度から新学習指導要領が全面実施となりますが、どのような点を注意して見詰めていくべきだと思いますか。

横藤雅人氏

 よこふじ・まさと 1955年北海道生まれ。78年、北海道教育大学教育学部卒業。札幌市立小学校教諭、教頭、校長として勤務し、2016年まで北広島市立大曲小学校長。16年から北海道教育大学札幌校学校臨床教授。主な著書に『子供たちからの小さなサインの気づき方と対応のコツ』(学事出版)『5つの学習習慣』(合同出版)など多数。

 今回の平成29年度告示の改訂学習指導要領は、前回よりかなり充実したなというのが第一印象でした。まず指導要領の厚みが違います。単純にページ数を比較しても平成20年度告示の小学校学習指導要領は237ページ。一方、今回は335ページ。教育課程編成の基本的な考え方や授業時数の取り扱いや配慮事項などを規定した総則を見ても平成20年度(133ページ)と29年度(263ページ)では倍ほどの違いがあります。従って、かなり充実した内容になっていると思います。

 見るべき内容としては、いくつものポイントがありますが、全教科に共通して学習指導要領の理念と精神が統一的に謳(うた)われていることが大きい。時代の流れに沿った教育の方向性としてキャリア教育の推進や道徳の教科化、支援が必要な子供たちへの特別支援教育など沢山の項目が今回の学習指導要領に盛り込まれています。

 学習指導要領の“前文”には、「学習指導要領とは、…教育課程の基準を大綱的に定めるものである。学習指導要領が果たす役割の一つは、公の性質を有する学校における教育水準を全国的に確保することである」と定め、その上で「各学校がその特色を生かして創意工夫を重ね、…、教育活動のさらなる充実を図っていくことが重要である」と、教育課程全般にわたって学習指導要領の目指すべき目的と目標が明確に示されています。

 「横串が入っている」という方もいますが、全教科の根底に目指すべき教育の理念と目標が一貫して流れており、教育の方向性が明確になったと思います。

平成20年度告示の学習指導要領と今回の学習指導要領では、どの辺に違いがあるのでしょうか。

 総則を見ただけでも、今回の学習指導要領では新しい項目が増えていることが分かります。例えば、「教育課程の編成及び実施」のところでは、「教育課程の編成の主体」「生きる力を育む各学校の特色ある教育活動の展開」「学校段階等間の接触」といった項目が加わっています。このように新しく入った項目が10以上あり、文部科学省の力の入れようが窺(うかが)えます。とりわけ、「教育課程の編成の主体」については、前文に「各学校がその特色を生かして創意工夫を重ね」とあるように学校の主体性をはっきりと打ち出していること。

 教育課程の編成については、校長を中心として学校が一つのチームとして、児童の発達段階や地域を配慮しながら、各教科横断的な視点に立って、子供たちの資質・能力の育成に取り組むことが明確になりました。これなどは前回の学習指導要領よりかなり強化されたところです。

 また、教育課程の編成の中に「歯止め規定」というのがありました。例えば、小学校の算数であれば「比の値」などは、これについて文部科学省は「一律に扱わなくてもいい」というような言い方をしていました。しかし、教育の現場では「比の値はやらないんだ」、「ここはやってはいけないんだ」と受け止めていたという実態がありました。

 しかし、今回の学習指導要領では、この歯止め規定を削除し、教育課程の編成の主体は学校であることから、学校の子供たちの実態に合わせて、「比の値」などを「扱わなくていい」のではなくて、できるのであれば踏み込んで「やってもいい」というふうに一歩踏み込んだ形になりました。

 新しい項目ではこの他に「カリキュラム・マネジメントの充実」や、「主体的・対話的で深い学びの授業の改善」といった文言が出ていますが、これなども子供たちの資質・能力を身に付け伸ばすためには単に教科書の中身を教えるのでなく、学校全体の教育課程の編成の中で行うことが打ち出されていることから、学校に任された部分が非常に強くなったと言えます。

小学校でもコンピューターを活用した授業やプログラミングの体験、さらに小学3、4年生の英語の授業が本格化してきています。その点について学習指導要領にも取り上げられていますが。

 世界的なAI(人工知能)や情報・グローバル化の進展を背景に、文部科学省はインターネットを活用したICT(情報通信技術)教育の導入やプログラミング教育を進めようとしているのだと思いますが、危惧がないわけではありません。

 数学者でAI開発に詳しい新井紀子さんという方がいます。現在は国立情報学研究所社会共有知センター長を務めている人ですが、彼女は2011年に東大合格を目指すロボット「東ロボ君」の開発プロジェクトに携わり、大学受験では偏差値57ほどのかなり高いレベルのAIロボットを作りました。そこで分かったことは、現時点ではAIロボットの読解力には限界があるということでした。

 しかし、問題なのは、ロボット以上に現在の子供たちの読解力が低下していることです。教科書をきちんと読むことができない。文脈を理解しないまま計算し、暗記で問題を解いている子供が増えています。新井さんは、子供たちが考える力を養うには昭和の教育方法が望ましいと訴えています。すなわち「読んだり、写したり、書いたり」するのがいいのであって、タブレットなどを使ったICT教育には反対だと主張しています。

 私もまったく同感です。子供たちにはAIが立ち入ることのできない領域、つまり、きちんと文脈や物事を読み解き、考えていく力や感動する感性を養う教育に力を注ぐべきだと思います。

新型コロナウイルスで小中高、大学などすべての教育機関で休校が続いていますが。

 新型コロナウイルスはまさに国難に当たります。休校がいつまで続くか、それははっきりしませんが、教育界にとっても今回のような全国レベルの長期にわたる休校は戦後初めてのケースだと思います。ただ、こうしたピンチを乗り越えていくことも大事で、知恵を出し合いながら家庭、地域、学校で取り組んでいくべきではないでしょうか。例えば、子供は家庭で過ごす時間が長くなります。そうしたときに子供たちは一日のスケジュールを決め、その中に家事の手伝いやお母さんへの肩もみなどを入れて家族の絆を強めるのも一つの手だと思います。