イスラエル 緊急連立政権で合意
議会は承認、最高裁が審理へ
イスラエルのネタニヤフ首相と中道野党連合「青と白」を率いるガンツ元軍参謀総長は4月20日、緊急の連立政権を樹立させることで合意した。ネタニヤフ氏が当面首相を務め、途中でガンツ氏に交代する。しかし、この合意には「交代時期の2021年10月になってもネタニヤフ氏は首相を交代しない」などと懸念の声が強い。政権樹立の期限が迫る中、最高裁判所は、合意内容が合憲かどうかを審理するという。
(エルサレム・森田貴裕)
違憲なら4度目の総選挙も
イスラエルでは政局の混乱が長期化し、3月までの1年間で3度にわたる総選挙(国会定数120)を余儀なくされ、ネタニヤフ氏が暫定政府を率いてきた。3月2日の総選挙では、汚職疑惑を抱えるネタニヤフ氏が党首の右派与党リクードが第1党となったが、当選した国会議員の過半数がガンツ氏を首相候補に推薦。リブリン大統領はガンツ氏に組閣を要請した。
当初、打倒ネタニヤフ政権を主張していたガンツ氏だが、新型コロナウイルスの国内での感染拡大を受けて「緊急の挙国一致政府が必要だ」と方針を転換。かねて「青と白」との大連立を訴えていたネタニヤフ氏はこれに応じ、ガンツ氏との連立協議に入った。いったんは21年9月にガンツ氏が首相を引き継ぐことなどで合意したものの、収賄罪などで起訴されているネタニヤフ氏が裁判官人事に関する自身の権限強化などを求めたことで連立協議は難航した。
ガンツ氏は組閣期限の延長を求めた。リブリン氏は、期限を延長してもガンツ氏主導の組閣は困難と判断、期限の延長を認めない考えを示していたが、ネタニヤフ、ガンツ両氏が4月14日、挙国一致の連立政権の樹立に向け「重要な進展があった」として協議を継続するとの共同声明を発表。両氏が組閣の期限延長を求めたため、リブリン氏は13日までとしていた期限を15日まで延長した。しかし、合意がまとまらないままガンツ氏の組閣権限は失効した。
リブリン氏は16日、国会に新たな首相候補を擁立するよう要請した。国会で3週間以内に過半数が支持する候補が決まらなければ、4度目の総選挙になる。ガンツ氏の組閣期限は過ぎたが、国会が解散されるまで協議は継続できる。ネタニヤフ、ガンツ両氏は16日朝に共同声明を出し、協議を継続すると表明した。
協議の末、ネタニヤフ、ガンツ両氏は20日、新型コロナの感染拡大に対処するため、緊急の連立政権樹立で合意文書に調印した。合意した連立の期間は3年間で、最初の1年半ネタニヤフ氏が首相を続投した後、ガンツ氏が首相を引き継ぐ。ネタニヤフ氏は次期連立政権について「国民の生命を守るために行動することを約束する」と主張。ガンツ氏は「新型コロナと闘い、全ての国民を守る」と訴えた。
ガンツ氏は、ネタニヤフ氏が後から国会で、首相交代などの合意を覆すことができないよう「120議席の議会で75議員の賛成が必要」との条項を合意文書に盛り込んだ。報道によると、両氏の合意文書には、5月に始まる最高裁判所の審理による判決でネタニヤフ氏が首相としての職務を果たせなくなった場合、国会は解散し「直ちに総選挙を実施する」という条項も入れられたという。
イスラエル国会は4月30日、ネタニヤフ、ガンツ両氏の合意文書を賛成多数で承認した。次期政権の発足までには、さらに特別委員会で議論、修正を経た後、議会の承認が必要という。政権樹立の期限が迫る中、最高裁判所は、「起訴された議員は連立内閣を樹立できない」という理由による異議申し立てを検討するとともに、合意内容が合憲かどうかを審理するという。イスラエルの法律によると、首相は起訴されても職務を続けることができる。合意内容が違憲とされ政権樹立ができなかった場合は、国会は解散し4度目の総選挙となる。ネタニヤフ氏は、贈収賄、詐欺および背任の罪で5月24日に初公判が予定されている。ネタニヤフ氏は一切の不正を否定し続けている。