北海道らしい特色ある教育の研究実践を展開
広がる「北海道雪プロジェクト」の啓発啓蒙活動
世界的に積雪の多い都市として知られる札幌市。その雪をテーマとした授業を教育カリキュラムに入れることで北海道の特色ある教育を展開しようと長年、研究実践している北海道雪プロジェクト(代表、高橋庸哉・北海道教育大学札幌校教授)はこのほど、札幌市内の小学校で雪をテーマにした公開授業を行った。(札幌支局・湯朝 肇)
身近な教材を授業に活用、札幌市内の小学校で公開授業
「緯度が札幌より北にあるハバロフスクよりも札幌の方が降水(雪)量は多い。それはなぜか。きょうは皆でその原因を考えてみよう」――1月24日、札幌市北区にある市立新琴似緑小学校の5年生のクラスを受け持つ担任の渡邉浩考教諭が生徒たちにこう語って理科の授業を始めた。渡邉先生は前もって準備した極東アジアの地図、札幌とハバロフスク両市内の街並みや1年間の気温と降水量のグラフなどを黒板に張り付けて説明。その後、六つの班を作り生徒たちが20分ほど討論し考える時間を与えた。
この日の授業には市内の小学校教諭や将来教師を目指す北海道教育大学の学生ら60人ほどが見学した。生徒たちは、この授業を受ける前にあらかじめ社会などの授業で日本海の海流や各地の気温の変化を勉強していた。その上で、この日の授業では地図帳や各班に与えられたタブレットなどを使って要点を模造紙に書いていくという展開で授業が進められた。
討論時間が終われば各班から1人が代表して立ち、話し合った内容を発表する。そのうちの1人である瀧口創太郎君は「ハバロフスクは北緯が札幌より高くても内陸にあるため水が蒸発しにくく、北西の冷たい風と日本海の暖流によって暖められた水蒸気が北海道の山々にぶつかり多くの雪を降らせる原因となっていると僕たちの班は結論付けました」と発表した。
また、もう一つの授業を北海道雪プロジェクト代表の高橋庸哉・北海道教育大学教授が「雪の結晶」をテーマに3年生のクラスで行った。札幌市の1年間の累積降雪量はどのくらいか、雪の結晶の形、種類、成長の様子などをクイズや写真、映像を使って楽しく説明した。
公開授業の後は、札幌市内で教鞭(きょうべん)を執る教師らによるパネルディスカッションを行った。テーマは「学び直す北海道の雪と冬」。札幌市立屯田北小学校の世界幸子教諭、札幌市立百合が原小学校の築田詩織教諭、NPO法人ほっかいどう学推進フォーラム理事長の新保元康氏がそれぞれの取り組みを紹介した。この中で、元小学校校長の新保理事長は、「北海道は雪という素晴らしい教材を天から与えられている。この雪と向き合うことで北海道らしい特色ある教育を施すことができる」と指摘する。
また、「家庭科と雪」をテーマに報告した築田教諭は、「家庭科の教科書は本州仕様となっていて、北海道の生活にそぐわない面がある。北海道の冬に即した家庭科を教える必要がある」と強調。ちなみに、札幌市教育委員会は2009年度より「札幌市らしい特色ある学校教育」の中核のテーマとして「環境」「読書」「雪」を柱に据え、各学校には「雪」を使った授業の展開を促している。
もっとも雪プロジェクト代表の高橋教授によれば、「札幌市は特色ある学校教育の柱に『雪』を据えていますが、札幌市内の学校が本当に意識をして取り組んでいるかといえば、もう少しという気がします」と不満げだ。雪プロジェクトは2000年に同教授らが立ち上げた団体。札幌市内の教師らが参加して雪をテーマにした教材を開発し、実際に毎年、小中学校などでの公開授業やさっぽろ雪まつりのイベントなどに参加して啓発啓蒙(けいもう)活動を展開している。
とりわけ、来年度から小学校で新しい学習指導要領の全面実施となる。「郷土が育んできた文化を学ぶ教育。『主体的・対話的で深い学び』を柱とする新学習指導要領だからこそ、北海道らしい特色ある教育を提供したい」(同教授)と意気込む雪プロジェクトの活動はさらに広がる気配を見せている。











